【沖縄県】 弁護士過疎地域で市民の法的アクセスを支える元協力隊の弁護士 折井真人さん(平成7年度1次隊/グアテマラ/村落開発普及員)[2011年4月1日掲載]

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折井さん(沖縄県在住)

民間企業を経て協力隊に参加した折井真人さん(平成7年度1次隊/グアテマラ/村落開発普及員)。派遣されたグアテマラで、目標を達成できなかった協力隊時代の思いから、帰国後、司法分野での国際協力につながる、弁護士の道に進んだ。

 

協力隊から帰国後、弁護士へ

人が生活している限り法律問題は存在する

沖縄県石垣島に赴任して6年目。八重山列島の9島3市町を管轄する「八重山ひまわり基金法律事務所」で、折井さんは2名の事務員とともに地域住民からの法律相談や個別の事件処理を行う。

相談から判決に至る一連の過程は概ね次のとおりとなる。 

★トラブル発生
⇒法律相談(法律問題とそうでない問題の仕分け、法律問題に対する助言指導)
  ⇒事件の受任
    ⇒提訴(訴える場合) ・ 応訴(すでに訴えられている場合)
      ⇒和解・判決
        (⇒強制執行、差押など)

過去5年間で受けた相談は約1300件、受任した件数は約800件と極めて多い。1ヶ月に30~40回裁判の期日が入ることもある。借金の整理、離婚、土地問題、交通事故、賃金不払など事件内容は多岐に渡る。なかでも債務整理の相談が多く、受任の7割強を占める。

不安定な収入、低賃金、高失業率のうえに、高い物価(離島地域は輸送費がかかる)、若年結婚による低所得での子育て・多子化、密接な親族関係(援助を頼まれると断れない)などで支出が膨らむ。地域レベル、家庭レベルの慢性的な経済状況の悪化が揉め事や紛争を引き起こす背景にあるとされる。

「人が生活している限り、過疎地においても法律問題は存在します。しかし、過疎地に弁護士が常駐して法律相談や事件処理を担当することは少なかった。つまり“弁護士過疎(※)"という現象です。弁護士は言わば個人経営者でもあるので、過疎地での需要が不明であったり、生活が困難となれば行かなくなります。すると、過疎地の人々は本来法律問題として処理されるべきものが泣き寝入りすることになったり、高い費用をかけて遠方の弁護士に委任せざるを得なくなります」

(※) 裁判官や検察官の常駐がないことを含めて司法過疎と言う。


石垣島の美しい海

日弁連(日本弁護士連合会)は、弁護士過疎の対策として「ひまわり基金公設事務所」の制度を設けた。一定の経済面・情報面の支援を条件として、個々の弁護士に対して弁護士過疎地での常駐勤務を募集するというもの。石垣島には、複数の弁護士が活動していたが、高齢などにより、法的需要を十分満たしていないとの判断があり、沖縄弁護士会の要請を受けて日弁連が開設を決定。

弁護士1年目に赴任した熊本で、将来は九州沖縄地域の弁護士過疎地へ赴任することを予定しつつ、通常の弁護士業務に従事していた。そこへ、「八重山ひまわり基金法律事務所」の募集があり、応募して選定を受けた。

折井さんは弁護士1年目に赴任した熊本で、将来は九州沖縄地域の弁護士過疎地へ赴任することを予定しつつ、通常の弁護士業務に従事していた。そこへ、「八重山ひまわり基金法律事務所」の募集があり、応募して選定を受けた。

「沖縄の離島という異文化地域での生活への順応、地域住民の問題を解決しようという心構えにおいて、協力隊の経験が直接活かされていると思います」

ディズニーランド勤務を経て協力隊へ

折井さんはちょっとユニークな経歴の持ち主。大学卒業後、最初に就職したのは東京ディズニーランドを運営する大手企業。ディスニーランドの人を喜ばせる「本気度」に惹かれ、その手応えを直に感じることができると考えたからだ。配属は商品部店舗運営課。いわゆる「お土産屋さん」の管理。エントランス正面にあるワールドバザール内の複数店舗を担当。文字通り店舗の運営に従事し、時にはレジを打ったり商品の補充を行ったりもした。

もともと海外での援助活動に興味があった折井さんは、思い切って2年間勤務した会社を退職し、協力隊に参加。中米グアテマラで村落開発普及員として派遣された。赴任したものの最初の約半年は活動先が決まらず、非常に辛い時間を過ごしたが、先住民女性の現金収入確保のために手織物などを商品化する活動や、女性グループの組織化などに携わった。

だが開発の知識や経験がないこと、そこからくる消極性を克服できなかった折井さんは、グアテマラ在任中から帰国後の進路を真剣に考えるようになった。

「隊員活動はまったく不十分なまま終わってしまいました。国際協力分野でのリベンジを果たしたいが、専門性という武器がなければ話にならない。世界中どこでも役に立つという意味で医師になることも検討しましたが、法学部卒業だったこともあり、法律分野に専門を求めることにしました」

しかし決して国際協力の道を絶った訳ではない。日本で通用する専門家になってからもう一度国外に出る希望は持ち続けている。弁護士として難民認定問題や、(国際私法外国人の離婚など)の実務経験を積み、実務をとおしてNPOなどとの交流が出来ると、司法分野での国際協力につながる。こうしたイメージを持って折井さんは難関の司法試験に挑むことになる。

大学受験よりはるかに大変な司法試験

試験勉強を始めたのは29歳。独学に加え講座や答案訓練のために予備校にも通った。勉強時間は1日平均6~7時間。勉強方法は論文対策がメイン。実際に答案を作成する訓練が特徴的だ。もちろん条文の暗記量は多いが、丸暗記だけでなく、条文上に解釈の争いがある点や、個別事案で判断の別れるものに理由をつけて分析する勉強も必要不可欠。

2002年11月(※)、折井さんは受験4回目でのスピード合格を果たした。この年の合格者の平均受験回数は7回であった。

(※)当時は司法制度改革前の試験。2004年以降は新制度となり、法科大学院を修了しなければ新司法試験を受験することができない。詳しくは日弁連HP「弁護士になるには」)

「大学受験よりはるかに大変。もう二度とやりたくないですね(笑)」

司法試験に合格すると、次は司法修習の過程。法律の実務家になるために1年半の期間、司法修習生として研修を受けなければならない。最初の3カ月は実務家として要求される基本的な考え方・技量の指導を受ける。司法試験で問われる知識と、実務家として問われる知識がかなり異なるからだ。試験では確定された事実に対する法的思考を問われるが、実務では事実の確定方法自体が問われることになる。その後1年は実務の修習に入る。刑事裁判・民事裁判・検察・弁護の各実務に加え、裁判傍聴・判決書などの起案・模擬裁判なども行う。最後の3カ月は起案の訓練と修習終了時の試験(いわゆる二回試験)。内容が難しいこの試験に落ちると実務家にはなれない。

折井さんは試験勉強のなかで次第に弁護士の業務を知るにつれ、国際協力以外の可能性も視野に入り、将来の選択肢を幅広く持つようになった。

「弁護士過疎対策のことは司法試験の合格前に知ったのですが、協力隊よりも刺激が少ないと思い、自分が参加するイメージはありませんでした。しかし熊本で実務修習を受けていたときに現場の実務家の話を聞いて、これはむしろ協力隊の経験が活かせるなと思いました」 

 弱者を救済し、真の意味での法治社会を

多数の法律相談や事件に対処してきた折井さんは、揉め事や紛争を少なくするために、人々の弁護士に対する考え方や、直面する問題を解決する手段についての意識を変えていかなければならないと考える。

日本は、とくに地方では、道理を通すよりも人間関係に気を取られて泣き寝入りしたり、そもそも法的な解決が出来るという発想を持てない人が多く、真の意味での法治社会と言えるかどうか、疑問を感じている。

「弁護士は世間一般に思われているほど敷居の高い存在ではありません。費用が高額というイメージですが、お金がなければ低額で依頼できる制度もあります。何でもかんでも裁判にするというものではありません。ギリギリまで我慢しないでとりあえず相談だけでも、『弁護士を利用する』という意識を持って欲しいですね」

多くの事件では、社会的経済的に弱い立場にいる人が心無い者によって不利な条件を強いられたり、虐げられたりするケースが後を絶たない。不況、雇用悪化、高齢化、過疎化などの社会問題は間違いなく個々の家庭生活や社会との繋がりの悪化を招いている。

専門性が高く、誰にでも出来るものではない仕事で良い活動ができれば、大きなインパクトを与えることができる。弁護士はそのような仕事のひとつだと折井さんは語る。

しかし弁護士になる人のなかには偏差値エリートが多く、難しい司法試験に受かるということが自己目的になってしまい、仕事自体に対する目的意識が低い人も残念ながら存在するという。協力隊経験者についてはそういう人はいないはずだと、協力隊経験者ならではの弁護士が増えていくことに期待を寄せている。

「純粋に弱者を救済する法律分野での専門家ということで興味を持つ人に弁護士になってもらいたいですね。ただし、弁護士を目指すなら相当な覚悟を持って努力してほしい。人の人生における重要な場面をサポートする仕事であり、責任は極めて重大。プレッシャーに押しつぶされそうになることも多々ある。しかし、それはやりがいの裏返しです」

 

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