【奈良県】 女性救急隊員として市民の命を救う、竹内綾子さん(H16-1/マラウイ/体育)[2011年3月1日掲載]


竹内 綾子さん(奈良県在住)

大学卒業後、定時制高校での保健体育教師を経て、青年海外協力隊員として、マラウイで体育を教えていた竹内さん。現在は、奈良市消防局の救急隊員として活躍している。

協力隊員時代、の裏に住んでいた少年が脳性マラリアで亡くなってしまったことがあった。病院が遠い場所にあったため手遅れになり、助かるはずの命が救われない現状を目の当たりにした経験は、帰国後、救急隊員を目指す原動力となった。

市内で最も忙しい消防署

傷病者を現場から病院まで搬送する救急隊員の仕事は24時間勤務。竹内さんが勤務する奈良市中央消防署は年間約2600件(※H21年度)と市内で最も多く、1日平均7~8件の出動件数がある。飲食店が多い繁華街地域を管轄しているため、週末の夜にはほぼ決まって急性アルコール中毒の傷病者を搬送することがある。また冬場は暖かい布団や室内から急に寒い場所へ出ると心臓に負担がかかることから、夜間と早朝の救急出動が増える時期となる。加えてインフルエンザ流行時には疑いの患者も含めた搬送も多くなる。

(※奈良市消防局では現在11台の救急車が運用され、年間約1万4000件の救急出動がある)
 

救急隊員 竹内さんの1日  

AM:8時頃 出動
   8時25分 大交代 (前日勤務の者と本日勤務の者の引き継ぎ)
   9時 車両整備・清掃
以降

待機しながら日常業務や訓練を行う
出動、帰署後には事務処理

AM:1時以降 入浴・仮眠(待機時間となるため、出動があれば出ていく)
   7時前 起床
   8時25分 大交代


救急車内で準備をする竹内さん

 

救急隊は、隊長・機関員(運転)・隊員(後部座席で処置行う=竹内さん)3人編成。それぞれに役割があり、隊長の指示のもと活動を行うのが大原則。

「どんな場面においても基本的には3人の活動になるため、チームワークも非常に大切な要素です」

出動指令がかかると地図を頼りに救急要請があった家・場所を探し、安全第一で現場へ向う。現場ではまず傷病者の観察を行い、情報収集や応急処置を施すと共に、その症状や病態にあった病院を選定し、指令課へ病院交渉依頼をする。救急車内に収容後も引き続き応急処置が施され、病院へ受け入れが可能かどうかの返答を待つ。受け入れ病院が決まればすぐに搬送に移る。搬送途中も傷病者の容態変化がないか常に観察を続ける。そして病院に到着すると医師・看護師へ傷病者を引き継ぎする。

 常に自分の視野を広げる

救急隊員は医師と違い、行える応急処置は限られているが、これをフルに活用し傷病者の容態を悪化させないよう慎重に搬送することに気を配る。様々な現場がある中、その時々で判断し、接遇や処置の方法を変えて適切な病院へ搬送しなければならないため、難しい判断を要する時がある。症状によっては本人や家族に病態を分かりやすく説明し安心してもらうことも救急隊員の役割と考え、傷病に関する十分な知識も必要となる。


生物化学剤災害対応訓練にて
(左端:竹内さん)

 

 

日常訓練や病院との合同訓練が欠かせないのは、無数に異なる現場状況、傷病者の容態、変化する医療技術・システム、また社会状況の変化による影響もあるためだ。

「医療は常に進んでいるので、訓練を行って手技を身につけたり自分で勉強したりするほか、非番日を利用して救急に関する学会や講習会に参加して様々な情報を得るようにしています」

救急従事者として市民にアピールすべきこともある。ここ数年社会問題と化している「救急車の適正利用」だ。全国的に軽傷患者や常習者を搬送するケースが多く、重傷患者が発生した場合に一番近くにある救急車が出動することができないことがある。普段から健康に関心を持つことや応急手当を知ること、また急に病気や怪我をしたときに家族の協力が得られる体制を作ることも適正利用につながるため、市民ひとり一人に是非考えていただきたいことだと訴える。

マラウイでの悔しい思い

沖縄県出身の竹内さんは大阪にある教育大学の教養学科を卒業し、大阪府立の定時制高校で2年間保健体育講師として勤務。夏休みに旅行でカンボジアの孤児院を訪れた経験が協力隊を受験するきっかけとなった。学校現場での経験を生かせる「体育」の職種に合格し、アフリカ・マラウイに派遣された。

現地では小学校数校を巡回し、体育教育を普及する活動を主に行った。当時のマラウイでは純粋な体育教科が消滅していく方向にあった。ドイツや南アフリカなどを例に体育が音楽や美術などと統合された新教科を、マラウイでも取り入れる動きがあったからだ。


マラウイでの体育授業にて(右端:竹内さん)
空気椅子で「協力しあうこと」を学ぶ生徒たち



 

「体育を『教育』として捉え、その特性であるルールを守ることや協調性の大切さを子供達へ伝えたい。マラウイに合った方法でそれを伝えていくことを念頭において活動していました」

休日には同期の隊員らとともにつくった「健康教育分科会」でマラウイ各地をまわり、子どもたちに体を動かすことの楽しさや健康への興味を持ってもらおうと健康教育イベントを開催。初めて行う「綱引き」や「二人三脚」といった種目に、子どもたちが楽しそうに取り組む様子が多くみられた。

任期も半分を過ぎたある日、竹内さんの家の裏に住んでいた少年が脳性マラリアで亡くなってしまうというショックな出来事が起こった。前日まで元気な顔を見せていた彼が、竹内さんが活動から帰ると亡くなっていたのだ。十分な処置ができる病院は任地から離れているため、到着するまでに手遅れになったという話を聞き、助かるはずの命が救われない現状を目の当たりにした。少年に対して何もできなかった「悔しさ」は、帰国後に救急隊員になる大きな原動力となった。

女性ならではの接遇 

自治体によって男女比率の割合は異なるが、女性の採用枠は全国的にまだまだ少ない状況にある。救急隊員になるためには消防吏員つまり各市町村・自治体の職員として採用されなければならない。帰国直前になり、竹内さんは女性消防職員の採用情報を調べていたが、ほとんどが年齢制限や募集終了となり受験することさえできなかった。しかし、帰国後の2006年8月、大学時代に住んでいた奈良へ戻り、次の機会をうかがっていたところに奈良市消防局が職員を募集、早速受験し見事に合格した。

消防職員に採用されると最初の半年間は消防学校に入校し、法律を始め消火や救助活動の基礎を学ぶ。卒業すると各所属へ戻り、消防隊・救助隊・救急隊にそれぞれ配属される。採用4年目の竹内さんは希望通り救急隊に配属され現在に至っている。

竹内さんは学生時代にクラブ活動で部員が怪我をして救急車で搬送されたことが何度かあった。救急隊員が全員男性であることに違和感を感じていた。怪我や病気で不安な状態のなか余計に「気を使ってしまう」という感覚。

「自分が傷病者の立場になって考えても、やはり体格のいい男性隊員ばかりに来られると怖いですよね(笑)。女性隊員として、言葉使いだけでなく常に身なりも清潔にし、相手に信頼し安心してもらえるような雰囲気作りを心掛けています」

消防職員の業務は現場活動が主であるため、業務内容を考えると男性がメインとなる職場とされる。施設の問題もある。建物が古い消防署では女性用トイレや女性用仮眠室がないところがあり、採用しても働く環境として成り立たない。小さい自治体は予算の都合上、特に設備面での遅れがあるため採用できないところが多い。 


竹内さんと救急車

それでも女性職員の数は年々増えている。予防や救急、指令業務においては女性ならではの接遇ができるといった利点があるため、最近は、奈良県内でも女性を採用する動きが出てきている。今年度採用の職員も含めると県内13消防本部のうち、4消防本部で25名程度の女性職員が勤務しているという。

竹内さんは救急隊員になって3年目。この仕事はとにかく体力勝負だと語る。夜通しで勤務することもあり、そんな中で病気や怪我をしている人に接するため、健康で丈夫な体が必要。体格のいい傷病者や狭い場所から傷病者を搬送することも多く、まさに体力勝負といえる。

「大したことなく帰宅しました」「親切に接してくれたおかげで不安なく病院へいけました」・・・。こうした傷病者や家族の方から時折お礼の手紙や来署があると、この仕事のやりがいを感じ、ほっとする瞬間でもある。

古都奈良には外国人観光客も多く訪れるため、急な病気や突然の怪我で救急車搬送されるケースもある。言葉がわからない外国人の搬送患者や同行者の不安が相当なものであることは、マラウイで「外国人」として生活していた協力隊経験から痛いほどわかる。英語で話す竹内さんの対応によって不安が和らいだ外国人の表情をみると、「協力隊にいってよかった」と思える場面のひとつでもある。

「隊員時代は、任地で医療や健康に対して考えることが多かったと思います。救急隊は命に関わる大切な役割を担う仕事であり、自分が直に経験してきたことが生きる場でもあります。多くのOGに是非挑戦してほしいですね」

今後は国家資格となる救急救命士を取得し更なる躍進を目指す竹内さん。将来は国際緊急援助隊に参加し、途上国の人々の命を救うフィールドで活動することを思い描きながら、今日も任務に励んでいる。

 

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