「人が生きる姿」に対峙する~児童小説『少年・空へ飛ぶ』と詩集『レイシスト』を上梓した、おぎぜんたさん(昭和56年度3次隊・ザンビア・野菜)[2016年7月11日掲載]

表紙
『少年・空へ飛ぶ』

学校で起こる出来事を頭から払いのけようと、ベッドの上でうつぶせになる中学生の少年。ドジョウやヒツジ、カラスなど、さまざまな生き物に自身を重ね、現実から逃れるように空想にふける。

おぎぜんたさん(本名:荻ノ迫善六,昭和56年度3次隊・ザンビア・野菜)の児童小説『少年・空へ飛ぶ』(偕成社発行)は、いじめに遭う主人公が、現実と空想の世界を行き来しながら少しずつ成長していく姿を描く。決して幸せな物語ではないが、主人公が勇気を出し、外の世界に向き合う姿に励まされる作品だ。自身がドジョウになった夢を見たことから、この物語を書き始めたという。「少年の心情とか夢想をそのまま書くことも必要ではないかと思う。現実に救われない子どもや、空へ飛んで死んでしまう子だっているのですから」。おぎさんは、執筆意図をこう述べる。

幸せの器
『幸せの器』 

青年海外協力隊に参加後、おぎさんは、国際NGOのスタッフとしてソマリアでエチオピア難民支援に約4年間携わった。その後、ケニアやウガンダ、スリランカなどで農業分野の国際協力に携わり、現在はケニア山の近くで農業を営み、執筆活動を続けている。

2010年に出版した『幸せの器』(偕成社)は、ケニアのスラムを舞台に、両親を亡くした12歳の少年がスラムに流れ着き、同年代の仲間に教わってスカベンジャー(ごみ拾い)をしながら生計を立て、一度は失いかけた希望ある人生を歩み始める姿を描く。「幸せはね、小さい器に入れるものなんだよ。小さいとすぐいっぱいになって満足するだろう。それが秘訣なのよ」。主人公がスラムで出会った女性の言葉に、読む側も励まされる。

この物語の背景には、おぎさんがケニアの首都ナイロビのスラムで出会ったストリートチルドレンやスカベンジャーたちの姿がある。休日に、ストリートチルドレンや女性の自立を支援するNGOの活動に参加するうち、スラムに目を向けるようになった。そこで出会ったストリートチルドレンやスカベンジャーたちの姿を目にし、親もいない、学校にも行けずに必死に生きる少年たちの姿を描こうと思い立ったのだという。

レイシスト
詩集『レイシスト』

これまでに2冊の児童小説を上梓しているが、創作の中心は現代詩。出版した詩集は4冊に上る。『アフリカの日本難民』(2010年、コールサック社)は、H氏賞、小熊秀雄賞、壺井繁治賞等、詩壇のさまざまな賞の候補に挙がった。2014年に、『時を歩く人』(土曜美術出版販売)で、第43回壺井繁治賞(詩人会議主催)を受賞。2016年5月に発行された5冊目の詩集『レイシスト』(土曜美術出版販売)は、タイトル通り、人種差別を題材とした和英のバイリンガル詩集だ。

2015年5月に東京で行なわれた「壺井繁治賞」受賞講演では、イスラム過激派組織「アル・シャバブ」がケニアのガリッサ大学を襲撃、150名近くを殺害した事件からアフリカの部族対立を説き、「植民地時代の後、白人たちが黒人に民主主義を教えなかったことが独立から現在までのアフリカの混迷につながっている。それを、植民地時代の白人の負の遺産と言うには時が経ちすぎてしまったが、そんな世界でも、庶民はたくましく生きている」と語った。『レイシスト』では、今も根強く残る「白人至上主義」、部族対立による虐殺や、植民地時代の影に生きる人々の姿を、寓話的な世界を織り交ぜて描く。そして、あとがきに代えて、作者の思いが昇華した一編で締めくくる。

アフリカよ! おまえは自由だ
世界の貧困と苦難からも
他者からの差別と虐待からも
すべての過去からも自由のはずだ
奴隷制度 植民地支配 白人至上主義
人種の偏見と差別 言論の統制と圧力
独立国家の汚職と物欲主義の蔓延
すべてからの心の解放を唄うのだ
(「アフリカに自由を!」より)

児童小説と現代詩。いじめを克服しようとする少年と、人種差別の下に生きるアフリカの人々。ジャンルは異なれども、おぎさんが描き出す物語は、人生の不条理を浮かび上がらせる一方で、悩みながら懸命に生きる人々にエールを送る。

関連リンク

▼『少年・空へ飛ぶ』 2016年3月/偕成社発行/定価1,296円
http://www.kaiseisha.co.jp/books.html?page=shop.product_details&flypage=flypage.tpl&product_id=6787&category_id=2&keyword=%E5%B0%91%E5%B9%B4%E3%83%BB%E7%A9%BA%E3%81%B8%E9%A3%9B%E3%81%B6

▼『幸せの器』2010年 11月/偕成社発行/定価1,512円
http://www.kaiseisha.co.jp/books.html?page=shop.product_details&flypage=flypage.tpl&product_id=2456&category_id=11&keyword=%E5%B9%B8%E3%81%9B%E3%81%AE%E5%99%A8

▽偕成社 トップページ
http://www.kaiseisha.co.jp

▼『レイシスト』2016年4月/土曜美術社出版販売/本体2000円+税
http://userweb.vc-net.ne.jp/doyobi/pg248.html

▼「時」を紡ぐ言葉~壺井繁治賞を受賞した、ザンビアOBの詩人、おぎぜんたさん [2015年6月15日掲載]
http://www.joca.or.jp/regional_society/report/20150615.html

▼『時を歩く人/おぎ ぜんた詩集』(2014年12月1日掲載)http://www.joca.or.jp/regional_society/books/201412_ogi.html

 

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