狩猟を通して考える、野生動物とのつきあい方~環境省・松尾浩司狩猟係長(平成16年度1次隊/モンゴル/生態調査)に聞く[2014年9月15日掲載]

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環境省自然環境局野生生物課
鳥獣保護業務室 松尾浩司狩猟係長

収穫の秋、ようやく実った農作物を食い荒らすシカやイノシシ。近年は個体数の増加により、全国各地でさまざまな被害をもたらしている。中でも、あらゆる植物を食べるシカによる被害は深刻で、農林業だけでなく生物多様性にも影響を与え、土壌侵食や表土流出など国土保全上の問題も引き起こしている。

被害を減らすには、防護柵設置などの対策があるが、捕獲により個体数を減らすことも重要になっている。そこで環境省は、その役割を担うハンターを育成しようと、「狩猟の魅力まるわかりフォーラム」を全国で開催。若手ハンターによるトークセッションや野生動物の肉「ジビエ」の試食、狩猟免許取得に関する相談に応じるなどして、若い世代の人々が狩猟に関心を持つような取組を進めている。

フォーラムの開催を担う、環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護業務室、松尾浩司狩猟係長(平成16年度1次隊/モンゴル/生態調査)に、狩猟が必要とされている現状や背景などについて話を聞いた。

増えすぎた鳥獣による被害の拡大

現在、シカやイノシシ等、一部の野生鳥獣の数が急速に増加し、また、生息域を拡大させており、自然環境や人間社会に様々な被害が出ています。特に、シカによる被害は深刻で、樹木の皮を剥がして食べてしまうため森は衰退し、下草が食べ尽くされた山では土壌侵食や表土流出を招くおそれもあり、その土地の生態系や農林業に大きな影響を与えます。現在、知床や尾瀬、屋久島など、豊かな自然を有する国立公園の3分の2で、このようなシカの被害が確認されており、対策が急務となっています。


高山帯のお花畑の消失(南アルプス国立公園塩見岳)
([左]1979年:増沢武弘氏、[右] 2008年:鵜飼一博氏撮影)

また、全国の農作物被害額は、近年、年間200億円を超える水準で推移しており、シカとイノシシによる被害だけで全体の6割を占めています。さらに、最近では、人里近くに出没した鳥獣が人に危害を加える、自動車や電車との交通事故を起こすといった生活環境への問題も大きくなっています。 

個体数急増の背景


樹皮を食べるエゾシカ(知床)

 

 

 

シカやイノシシは、明治時代に乱獲され、一時は絶滅寸前にまで激減しました。その後、保護のための狩猟規制が設けられたこと、捕食者だったオオカミが絶滅 したこと、拡大造林や耕作放棄地の増加などで餌環境が良くなったこと、大雪が減って越冬しやすくなったこと等、様々な要因によって個体数が増加し続けました。

例えばシカは、栄養状態が良ければ毎年1.2倍ずつ増えるほど増加率が大きいと言われており、実際に生態系のバランスが崩れるほど増え続けています。 2011年のシカの推定個体数は全国で261万頭でしたが、捕獲の状況が今後も同程度であれば、2025年には約500万頭まで増えると試算されています (※)。

※環境省による本州以南のシカの推定個体数(北海道は独自に個体数推定を実施。2011年は約64万頭)。


シカの食害等により衰退した森林
(吉野熊野国立公園・大台ヶ原)
 

鳥獣による被害を減らす対策には、防護柵の設置や、野生鳥獣との棲み分けを目指した環境整備など、いくつかの方法があります。しかし、増え続けるシカやイノシシに対しては、捕獲を強化して個体数を減らすことが非常に重要です。

環境省は、農林水産省と共同で、10年後(平成35年度)までに、シカとイノシシ の生息数を半減させるとの目標を掲げ、法律の改正をはじめ、様々な取組を行っています。

現状では、捕獲数が十分ではない地域が多いですが、その一方で、捕獲を強化し、農林業被害軽減につなげた自治体もあります。北海道はエゾシカの捕獲数に力を入れた結果、推定生息数が2010(平成22)年度の65万頭を境に2012(平成24)年度は59万頭と減少に転じ、農林業被害額も2012(平成 24)年度に、前年度より約1億500万円減少しました。

狩猟人気の低迷と

北海道のように、日本全体でこのような捕獲の強化を図っていく必要がありますが、日本では、狩猟者は減少し続けています。かつて、狩猟はレジャーとして人気があっただけでなく、獲物の肉を食用にし、皮を資源として売り、実用的なものでした。しかし、現在はあふれるほどレジャーがあり、肉や毛皮は買うことができるため、過去に比べて狩猟をする動機がなくなっています。

このため、1970(昭和45)年度は全国で約53万人いた狩猟免許者が、2011(平成23)年度は約20万に激減し、ハンターそのものが「絶滅危惧種」と言われるほどの危機的状況です。

また、現在活躍しているハンターは60代以上が中心で、20代の割合は数パーセントしかいません。銃による狩猟中の事故も起こっており、高齢者に銃を持たせたくないと感じる人がいる一方で、捕獲をしなければ生態系のバランスを保てない現状があります。

捕獲の担い手確保への取組 


狩猟の魅力まるわかりフォーラム
東京都会場でのワナ実演の様子(平成24年)

そこで環境省は、若い人々が狩猟の世界に入るきっかけづくりとして、「狩猟の魅力まるわかりフォーラム」を平成24年度に開始しました。夏から秋にかけて 全国数か所で開催し、昨年度の来場者数は前年度比1.5倍に増加、鳥獣被害や狩猟の社会的役割に興味を持つ層が増えたことがうかがえます。

今年度は、この後、石川(9月28日)、熊本(10月11日)、鳥取(11月1日)、茨城(11月9日)で開催予定です。
 

 

 


狩猟の魅力まるわかりフォーラム
宮城県会場での「ハンターズトーク」
(平成25年)

また、環境省では、野生鳥獣の管理の新たな仕組みづくりにも取り組んでいます。

今年5月に鳥獣保護法が改正され、従来の保護中心の視点だけでなく、適正な水準に個体数を抑えていくなどの「管理」という概念も法の目的に盛り込み、仕事として鳥獣を捕獲する事業者を認定する制度を作ろうとしています。狩猟の世界に入って技を磨き、被害を及ぼす鳥獣を捕獲するための技術・知識が一定以上のレベルになれば、最終的には事業者としての認定を受け、仕事として鳥獣捕獲を請け負っていく、という仕組みを念頭に置いています。この法律は来年5月頃に施行される予定です。

狩猟免許を取得するには

法律に基づく狩猟の方法には、銃猟(装薬銃、空気銃)、ワナ猟、網猟があります。猟具ごとに免許が分かれていて、都道府県単位で行われる試験を受け、合格すれば免許を取得できます。鉄砲、ワナ猟すべての免許を取得する必要はありません。狩猟免許を受け、毎年の「狩猟者登録」という手続きを行えば、狩猟を始められます。

※ただし、銃を使う場合には、都道府県公安委員会から銃の「所持許可」を別途受けることが必要。手続きの窓口は地域の警察署です。

ワナ猟は技術や経験が必要とされ、獣との知恵比べという面白みがあるようです。熟練したハンターは、その山に棲む個体の年齢、数などが分かるのだそうです。ハコワナの仕組みは単純ですが、設置場所の選び方、エサの撒き方など、獲物を捕らえるにはさまざまな知識・技術が必要で、一人前になるには5~10年かかると言われます。ちなみに私自身もワナ猟の免許を持っていますが、都心生活なので、ペーパーハンターです。

鉄砲の場合は免許の取得に時間がかかるだけでなく、費用もかさみますが、市町村によっては経費を補助するところもあります。合法的に狩猟をするためには、法律に基づく免許や許可などがどうしても必要です。

猟銃・空気銃所持の申請手続き(狩猟の魅力まるわかりフォーラムサイト/PDF 200KB)
http://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort8/pdf/shojikyoka.pdf

野生動物による被害がニュースに取り上げられることが増えるにつれ、この問題に関心を持つ人が増えていることを感じます。日本各地に共通する課題のため、授業で狩猟の文化や必要性を教える大学もあり、興味を持った学生の方が狩猟フォーラムに来てくれることもあります。

「狩猟の魅力まるわかりフォーラム」のウェブサイトには、ハンターになるための情報を集めたページもありますので、ぜひ参考にしてください。協力隊経験者の方で興味を持ってくれる人は多いのではと期待しています。

ハンターになるには
http://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort8/hunter

業務に生きる協力隊経験

大学時代は野生鳥獣の保護や管理を学び、人間と野生動物の付き合い方や、絶滅危惧種の保護などを専門的に考え、新卒で青年海外協力隊に参加しました。生態調査隊員として、イヌワシを使って狩りをする鷹匠たちが暮らす、モンゴル西部のアルタイ山脈のふもとの町バヤンウルギーに派遣され、モンゴル環境省の職員とイヌワシなどの絶滅危惧種をどう守っていくかが派遣要請の背景でした。しかし、いざ現地で生活をしてみると、動物の保護も大事ですが、まずは人の生活を守らなければなりません。生きるか死ぬかの生活をしている人に、ただ保護を訴えても、その言葉は届かない。当時の経験が、今の仕事に役立っています。

環境省が狩猟文化を紹介するフォーラムを開催していると知った動物保護団体などから「環境省は生物を守る立場ではなかったのか」という厳しい意見がたくさん寄せられています。官公庁の業務にはいろいろな意見が寄せられますが、どれかに肩入れすることはできない。さまざまな意見を取り入れ、日本の国としてどういう方向に向かっていくべきかを決めなければなりません。僕の考え方の根底にあるのは、正に協力隊経験で学んだ、「まずは人の生活を考え、その上でどうすれば自然と共生していけるか」という観点です。

人と生き物とのかかわり方は、きれい、かわいいだけのものではありません。野生動物による被害は経済的損失だけでなく、場合によっては交通事故などで人命に関わることもあります。人の生活を考えつつ、絶滅危惧種を保護する一方で、被害を減らすためにシカとイノシシを捕獲し、日本全体の生態系のバランスを維持していかなければならない。矛盾した行為に見えるかもしれません。環境省がこれらの役割を同時に担っていることを理解してもらえないこともあります。私自身、何が本当に正解なのかわからないことだらけです。しかし、「人と野生動物がどのように付き合っていけば良いのか」は、協力隊に参加していた頃からずっと悩み続けているテーマです。明確な答えはなかなか出ませんが、これからも悩みながら、まずは目の前にある課題に取り組んでいこうと思います。

(写真はすべて環境省提供) 

関連リンク

▼狩猟の魅力まるわかりフォーラム
http://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort8

▼狩猟の魅力まるわかりフォーラム Facebook
https://www.facebook.com/ShuryoForum

▼環境省 野生鳥獣の保護管理
http://www.env.go.jp/nature/choju

 

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