【長崎県対馬市】培った知識と人脈で“二度目の協力隊”~阿久津厚生さん(昭和42年度2次隊/モロッコ/獣医師)[2015年5月1日掲載]

九州と韓国の間に位置する長崎県対馬市ではイノシシやシカなど野生動物による農作物被害が深刻となり、被害が大きかった2012年度は農作物の被害額だけでも約3,600万円に上った(長崎県農政課調べ)。ハンターの協力を得て捕獲するイノシシやシカの肉や皮を活用し産業化しようという同市の取り組みに、対馬から約1,300キロ離れた栃木県宇都宮市に住む阿久津厚生(あくつ・ひろむ)さん(昭和42年度2次隊/モロッコ/獣医師)は協力隊参加後に商社や食肉加工メーカーで肉牛の肥育や牛肉生産、流通に携わった経験を生かし、アドバイザーとして活動した。


イノシシのワナを視察する阿久津さん(左)

対馬市は、狩猟免許を持つ市民の協力を得て農作物に被害を与えるイノシシやシカを捕獲、その数は年間約1万頭に上る。全国で捕獲されたイノシシとシカの数が約84万頭(注)であることを考えると、この数がどれほど多いかが分かる。市は捕獲に協力した市民に対し、1頭あたり1万円を謝礼として支払う。このコストは年間約1億円に上り、防護柵の設置にも毎年数千万円を費やしている。

同市は地域おこし協力隊の対馬版「島おこし協働隊」を2011年に開始し、5名を隊員として採用した。2013年4月から活動する二代目島おこし協働隊の募集にあたり、1枠を「有害鳥獣ビジネスコーディネーター担当」として、捕獲したイノシシやシカの肉や皮を活用し産業化しようと人材を募った。

注:環境省「狩猟及び有害捕獲等による主な鳥獣の捕獲数」2010年度のデータを参考。

応募書類の「ただし書き」

阿久津さんは青年海外協力隊のモロッコ二代目隊員として、獣医畜産研究所で家畜伝染病を診断する獣医師として活動。帰国後、商社、食肉加工メーカーに勤務し、牛肉の肥育や買い付け、加工・流通などに携わり、オーストラリアでの牧場運営にも携わった。

青年海外協力隊への参加は「人生が大きく変わる経験だった」と阿久津さんは言う。もう一度海外でのボランティア活動に参加したいと定年を機に退職。シニア海外ボランティアへの応募をしようと考えていた中、義母が認知症になり、介護のため応募を諦めなければならなかった。数年後、介護の役目を終えたときには、残念ながらシニア海外ボランティアの応募上限年齢である69歳を過ぎてしまっていた。

諦めきれず、どこかで活動の機会を得たいと年齢制限がない地域おこし協力隊募集を探して応募。その一つが、対馬市の募集だった。「応募時、古希を迎えていたので、『もし若い方からの応募があった場合は、後進に道を譲りたい』と、ただし書きを添えて応募した」と阿久津さんは振り返る。

市のしまづくり戦略本部新政策推進課で「島おこし協働隊」採用を担当する前田剛主任は、「面接で阿久津さんに話を聞き、青年海外協力隊経験者は熱意があり、自分の暮らしよりも社会や地域の問題をどう解決するかということへの意識を持っているという印象を受けた。若い人に機会を譲りたいと二次試験を辞退されたが、アドバイザーとして、これまでの経験や人脈を対馬に役立ててほしいとお願いした」と委嘱に至った背景を説明する。

欧米では、シカやイノシシの肉は、ジビエ(フランス語で野生動物の肉の意)と呼ばれる高級食材。阿久津さんは「捕獲された動物が捨てられているのはもったいないと感じ、ぜひビジネス化を支援したいと思った。食材として都内のレストランへの販売や、学校給食での活用も考えられる」と話す。栃木県那珂川町の「道の駅」では、イノシシ肉が販売されているという。

地域の課題、解決には国際的視野も必要

有害鳥獣ビジネスコーディネーター担当の島おこし協働隊員に採用された谷川ももこさん(福岡県出身)は、「これまでは農家・行政・ハンターのみが対策にかかわっていたが、イノシシやシカは道路で見かけるほど身近な動物で、草刈りをしない場所が住みかになり、畑に食べ残しを捨てればエサになる。有害鳥獣対策には住民の協力が不可欠で、一人でも多くの人に対策に興味を持ってほしいと、この取り組みを展開することになった」と説明する。

谷川さんは獣医師の資格を持ち、野生動物にかかわる仕事をしたいと応募。大学時代に対馬野生生物保護センターでインターンをしたことがきっかけで対馬に魅かれ通うようになり、イノシシを捕獲するハンターに同行するなどして、野生動物に関する活動ができないかと模索していた。島おこし協働隊員として活動する中、野生動物についての知識はあるものの解体や食肉処理の知識がないため、経験豊富な阿久津さんからメールや電話でアドバイスを得られることは大きな助けになったという。「阿久津さんはボランティアとして、栃木県那珂川町の有害鳥獣解体処理場を視察、報告してくれたことがあり、それはかなり役に立った。アドバイスがあったからこそ、取り組みを進めることができた」と話す。

野生動物の肉を食肉として流通させるためには衛生的に解体する設備が必要だ。そこで阿久津さんは、シカのツノを漢方薬として販売するために建てられた解体処理施設を改築し、利用することを提案。2013年7月には現地を視察し、計画の進捗を後押しした。 


視察のために対馬を訪れた阿久津さん(写真右)と谷川さん(写真中央)

「地域の問題を解決するためには、ローカルな視点だけで解決するのは難しく、国際的な視野や経験を持つ、いわゆる“グローカル”な視点が非常に重要。また、インターネットが普及していても離島は情報過疎地であり、口コミで情報が伝達されるが、それすらも入ってこない。そんな場所で、海外で活動した経験がある青年海外協力隊経験者との交流は、対馬の人々にとっても刺激になります」と、前田さんは話す。

阿久津さんは今年4月から、栃木県の健康福祉センターに獣医師職員として勤め始めた。獣医師の募集に応募がなく困っていると聞き応募したところ、採用になったためだ。今後、対馬市の取り組みは、食肉加工メーカー時代の後輩が阿久津さんのアドバイザー業務を引き継ぎ、支援していく。6月には、食肉解体施設の改修工事が完成する予定になっている。

「人の役に立ちたい」と、定年後も無私の精神で活動する阿久津さん。対馬市への協力例は、シニア世代の経験や知識が、地域活性化を促進する力になり得ることを証明する一例だ。

(写真:谷川さん提供)
2015年5月1日掲載

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対馬市トップページ
http://www.city.tsushima.nagasaki.jp
 

 

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