【パナマ】人々と野生ランの里をつくる~ 元JICAボランティアによる「パナマ野生蘭保護活動(COSPA)」[2014年4月1日掲載]


熱帯雨林の樹木についた野生ラン(パナマ)

数多くの生物が確認されながらも、絶滅危惧種が多く、生物の保全が急務となっている「生物多様性ホットスポット」。世界の生物多様性ホットスポットの一つに数えられる中央アメリカに位置するパナマには1,500種以上の野生ランがあるとされるが、開発や焼畑による森林の減少、乱獲により急速に減少していた。

パナマ政府の要請により派遣された元JICAボランティアの明智洸一郎さんは、任期終了後もパナマのラン保護活動に取り組み、このたびパナマ政府から「マヌエル・アマドール・ゲレロ章」を授与された。明智さんのこれまでの活動を、多くの元青年海外協力隊パナマ隊員が支えてきた。  

写真
ソト外務大臣から勲章を授与された明智さん

2014年3月3日、東京。来日していたパナマのフランシスコ・ハビエル・アルバレス・デ・ソト外務大臣は、元シニア海外ボランティアの明智洸一郎さん(平成12年度派遣/農業科学)に、パナマ政府を代表してマヌエル・アマドール・ゲレロ章を授与した。この勲章はパナマ国内外で科学、文化、政治分野で功績を挙げた人物に授けられる。

アルバレス・デ・ソト外務大臣は「パナマ政府は明智氏の業績を高く評価しています。それは、わが国の大切な国花である、“エスピリトサント(和名:ハト蘭)”の保護にかかわるからです」と叙勲理由を挙げた。そして、明智さんを祝福したいと駆け付けた列席者に視線を投げかけ、「この勲章は明智さんの業績をたたえるだけでなく、JICAのボランティア事業、パナマの野生ランを保護しようとする明智さんを支援してきた青年海外協力隊員の一人ひとりも称賛するものです」と述べた。

 


パナマの国花、エスピリトサント。
「精霊」という名をもつ

明智さんは大学で植物病理学を専攻し、農業関係の企業に就職。定年退職後の2000年にJICAシニア海外ボランティアに参加し、パナマ中央部の町、エルバジェ・デ・アントンに派遣された。標高約600メートルのカルデラの底にあり、平地を取り囲む熱帯雨林からなる豊かな自然の中には多数のランが自生し、「ランの故郷」として知られる地だ。しかし近年は、農地開拓のための焼き畑や熱帯雨林の伐採、別荘地としての開発により生育地の熱帯雨林が消失、さらには地元住民が観光客向けにランを売り生計を立てようと乱獲したため、希少種を含むエルバジェ・デ・アントンのランの種類は急速に減少していた。その中にはパナマの国花であり、ワシントン条約で国際取引が厳しく規制されている絶滅危惧種「エスピリトサント」があった。

 採取から栽培へ、住民の意識を変える


パナマ、エルバジェにあるラン保護センター全景

野生ラン保護のためパナマ政府からの要請に基づき派遣された明智さんは、ランを採取する住民とランを保護する住民を集め、2001年に「ラン栽培者協会(APROVACA)」を立ち上げ、ラン保護の意義と人工培養による栽培技術を伝えた。翌2002年に日本からの援助を得て「ラン保護センター」を開設。任期を終えて帰国後の2003年に、ラン栽培者協会を支援するNGO「パナマ野生蘭保護活動(COSPA)」を日本に立ち上げた。

COSPAはエスピリトサント植生地の回復に向けてランの「里親制度」を開始。一株ごとに年間の栽培管理費を募り、栽培をAPROVACAに委託して運営資金に充てている。このほか、日本国内でパナマの野生ランを紹介するセミナーや写真展を開催し、パナマランの魅力と共にラン保護活動の意義を伝えてきた。

活動を支えたパナマ隊員たち


「愛・地球賞」をAPROVACAに届けた明智さん

10年以上に及ぶ活動は常に順調だったわけではないが、パナマに派遣された経験がある元JICAボランティアや日本の支援者が明智さんの活動を支え、困難を乗り越えることができた。

明智さんも毎年パナマに渡り、日本側の支援者を案内するエコツアーを企画するほか、センターの運営状況を確認している。活動は少しずつ根付き始め、2005年の愛知万博では、APROVACAとCOSPAの活動が「地球環境問題の解決と人類・地球の持続可能性に貢献する100の地球環境技術」として「愛・地球賞」に選ばれた。

そして、民間団体による国際協力を支援するJICAの「草の根技術協事業」や外務省の「草の根・人間の安全保障無償資金援助」などを得て、ラン保護センターの整備が進められ、センターには観光客向けのラン庭園、ホステルやカフェ、セミナールームや展示スペースが完成。地元住民がガイドを務めエコツアーも開催している。開設から12年が過ぎた今、ラン保護センターは旅行案内サイトや日本人向けガイドブックで観光スポットとして紹介されるまでになった。

写真
保護センターを訪れた観光客

受章式のスピーチで、明智さんはこれまでの活動の経緯を話し、「四つの顕著なこと」として、COSPAのメンバーを紹介した。

「第一は、故・三浦ふづきさん(平成6年度3次隊/木工)の活動です。彼女はたびたびパナマに渡り、最終的には現地で就職し、APROVACAで住民の指導に当たりました。オーナー制度によるエスピリトサントの栽培を立ち上げたほか、APROVACAにエコツーリズムの考え方を導入し、観光ラン園を運営しました。『フーリア』と呼ばれ人々からとても愛されましたが、残念なことに2006年にパナマで亡くなりました。

二番目はAPROVACAの管理運営をするコンピューターシステムを開発し、指導と支援を続ける兵藤三尚さん(平成11年度1次隊/システムエンジニア)の活動が挙げられます。

三番目は世界各地からボランティアを受け入れ、ラン園の管理や見学者の案内などAPROVACAのシステムを確立した青年海外協力隊員、佐藤瑞西さん(平成21年度3次隊/村落開発普及員)の活躍です。

四番目に、パナマ在住の西村秀紀さん(平成9年度3次隊/土木)と元JICAナショナルスタッフの松井裕美さんの長年にわたるAPROVACAの指導が挙げられます。二人の活躍により、ラン園の敷地拡張がパナマ政府に認められ、日本政府の2回にわたる資金援助を得て、教育施設や道路の舗装などインフラ整備ができました」

スピーチは、日本・パナマ双方の政府や事業関係者、APROVACA、COSPA会員への深謝で締めくくられた。
そしてこの日は三浦さんの父、省三さんも叙勲式に駆けつけ、アルバレス・デ・ソト外務大臣より、ふづきさんを追悼する花束が贈られた。

思いが報われた一日

写真
運営に大きく貢献した、故・三浦ふづきさん

 

活動の礎を築いた三浦ふづきさんは、協力隊を終えて帰国後にCOSPA立ち上げに加わった。

会社勤めのかたわら、専門外だったラン栽培を明智さんから学び、5回にわたり現地を訪れ、住民が野生ランを採取せずとも生計を立てられるよう栽培技術を指導し、生計安定の手段としてエコツアー導入を提案した。

2005年にはパナマの日系企業に就職。平日は首都で働き、週末はエルバジェ・デ・アントンにあるAPROVACAで活動、活動が軌道に乗るよう献身的に活動した。しかし翌2006年、36歳のとき、活動のさなか病に倒れ、帰らぬ人となった。現地のラン研究者、アンドレ・マドゥーロ氏は2007年にパナマ固有の新種のランを発見し、ふづきさんの功績をたたえ、「Sobralia fuzukiae(ソブラリア・フヅキアエ)」と名付けた。学会誌に掲載した論文には「彼女はパナマ人以上にパナマ人らしかった」と評し、ランの保護に情熱を傾けた三浦さんの貢献を称揚した。 

現在、COSPA運営メンバーは30名ほどで、居住地は東京、愛知などさまざま。みな本業のかたわら、空いた時間をCOSPAの活動に充て、メールや電話で連絡を取り合い、会の運営や事務作業などを進めている。平田朱美さん(平成10年度1次隊/パナマ/土壌肥料)もその一人。毎年10月に都内で開催される国際協力のイベント「グローバルフェスタ」内のパナマOV会のブースでCOSPAの活動を知り、「協力隊で培ったスキルを生かし、手伝いたい」と活動に加わった。この日はパナマOV会の事務局業務を担当する吉岡初子さん(平成7年度2次隊/視聴覚教育)、加藤靖さん(平成5年度2次隊/医療機器)も駆けつけ、喜びを分かち合った。

COSPAを通じてAPROVACAに派遣され、会計システムを構築した兵藤さんは、「勲章授与式ではCOSPAの活動が評価されたことに加え、三浦さんの貢献もたたえられ、明智さんやメンバーの思い、三浦さんのご遺族の思いなどが一気に昇華され、われわれメンバーにとっても誇らしい、晴れやかな一日になりました」と話した。

エルバジェのラン保護センターでは、里親制度により栽培されているエスピリトサントが2008年に初めて花をつけた。里親となった支援者の数は100人を超え、日本人だけでなく、今ではAPROVACAラン園を訪れた外国人観光客も名を連ねている。

APROVACAはパナマ環境庁からの委託を受け、不法採取された着生ラン(樹木の上に植生する種類)を森の中に植え戻す活動も担っている。今後は地元住民の環境教育を通してランが不法採取されない環境をつくり、エスピリトサントを生育地に植え戻すこと、そして地元の人々が育てたランが町を彩り、エルバジェをランの里にすることが目標だ。

「エルバジェ・デ・アントンのほかにも、パナマにはランの保護が課題となっている産地があり、政府が国立公園や保護区をつくり保護に取り組んでいるものの十分ではありません。多くの動植物と共生するランの保護活動は、パナマの自然全体を守る活動とも協働する必要があります。われわれの活動はまだまだ力不足。パナマのラン保護活動がもっと広がるよう、青年海外協力隊をはじめとする若い力が加わってくれることを期待しています」と明智さんは言う。


写真
現地住民で構成されているAPROVACA。役員を選出し、活動への宣誓を誓う

エスピリトサントの保護活動は、パナマの人々の心に日本のボランティアの存在を大きく印象づけたことだろう。今年は日本がODAを開始してから60年、パナマとの国交樹立から110年周年を迎える節目の年。無私の精神で野生ラン保護活動に取り組み、パナマと日本の友好をいっそう深めた明智さんやCOSPA会員の功績に、心から敬意を表したい。

(写真:COSPA提供〔授賞式の写真を除く〕)

関連リンク

▼COSPAウェブサイト
http://cospa.main.jp

▼APROVACAウェブサイト
http://www.aprovaca.org

 

 

「帰国隊員の活動紹介」一覧に戻る

自治体・地域の方

  • 企画調査員(ボランティア事業)を目指す方へ
  • おきなわ世界塾
  • 協力隊ナビ~協力隊経験者と語ろう~
  • マラウイ農民自立支援プロジェクト
  • 外務省主催 NGO インターン・プログラム制度
  • 熊本地震 被災地への支援
  • 青年海外協力隊講座
  • 協力隊OB・OG会情報
  • 青年海外協力隊事業創設50周年記念 映画製作『クロスロード』
  • 協力隊ボイス フェイスブック

ページの先頭に戻る