チンパンジーが生息する森で学んだことを多くの人に伝えたい ~ズーラシア飼育員、川口芳矢さん(平成18年度3次隊/ウガンダ/環境教育)


現在担当する絶滅危惧種のサル、アカアシドゥクラングール
の前で、来園者に説明をする川口さん

今年5月、トキのひなが38年ぶりに自然界でふ化し、巣立ったことが話題になった。トキをはじめとする絶滅の危機に瀕する動物は国際自然保護連合(IUCN)の「絶滅のおそれのある種のレッドリスト 2011」に掲載されており、せきつい動物だけでも約6万3,000種がリストアップされている。

絶滅危惧種をはじめとする動物を保全していくには、生息地のまわりに暮らす人々の生活にも目を向ける必要がある――。青年海外協力隊員としてウガンダでエコツアーを立ち上げる活動をし、現在、よこはま動物園ズーラシアの飼育員を務める川口さんはそう話す。

動物の生息環境を再現して展示

横浜市西部にある、よこはま動物園ズーラシアは1999年に開園。豊かな自然に囲まれた約40ヘクタールの園内は七つの気候帯に分けられ、動物たちがもともと生息する環境に近い植生や環境を再現し、70種の動物を飼育している。

勤務先を休職して青年海外協力隊に参加する「現職参加制度」を利用し、ウガンダで活動した川口さん。協力隊参加前はインドゾウやマレーバクの飼育に携わり、帰国後は、チンパンジーの飼育に加わった。協力隊の任期を終えて帰国した2009年 4月、「チンパンジーの森」がズーラシアにオープン。ここには、川口さんの活動を通じて情報を集め、カリンズの森が再現された箇所が随所にある。

荒廃が進む森


違法伐採された木。木々が伐採された森を
元に戻すには膨大な時間が必要となる

 

川口さんが活動したカリンズ森林保護区は、森林の管理団体が木材の伐採権を業者に販売し、木の伐採で利益を得ていた。伐採する樹種やサイズが指定されてい たが、大きな木を切るためには、周りの小さな木が邪魔になる。

また、木を切り出し製材する過程で、ときには森に500人ほどが住み込み、踏み固められた り、食事のための煮炊きで焼かれたりすることで地面には下草も生えず、森が裸同然になった時期がある。

この森には絶滅危惧種であるチンパンジーが約450頭生息しているとされ、あまりにも急速に森が失われていくことに危機感を抱いた日本人のチンパンジー研究者が調査をしたところ、木材伐採がそれほど収入を生んでいないことが分かった。そこで持続可能な森林活用の代替案として、エコツーリズムを森林管理団体に提案したところ受け入れられ、事業立ち上げのために協力隊員が派遣されるに至った。


カリンズ森林保護区。147平方キロメートルの
広さがあり、山手線の内側面積の2倍強に匹敵する

この森には絶滅危惧種であるチンパンジーが約450頭生息しているとされ、あまりにも急速に森が失われていくことに危機感を抱いた日本人のチンパンジー研究者が調査をしたところ、木材伐採がそれほど収入を生んでいないことが分かった。そこで持続可能な森林活用の代替案として、エコツーリズムを森林管理団体に提案したところ受け入れられ、事業立ち上げのために協力隊員が派遣されるに至った。

川口さんに課せられた任務は、訪れた観光客が日帰りでチンパンジーを見ることができるエコツアーを事業として立ち上げること。そこで、野生のチンパンジーが人間を見ても逃げなくなるよう、少人数で近づき、人間が敵ではないということを学んでもらうための「人付け」を続け、ツアーのプランニング、地域の人々向けの環境教育までを担った。


エサとなるイチジクの木に登るチンパンジーの子ども
(カリンズ森林保護区で)

それまで森から得られる収入はすべて森林管理団体に回っていたが、森や野生動物を守る地域の人々にもエコツアーを通じて利益が還元されるよう、以前から行われていた村人が観光客をもてなす「コミュニティーツアー」を改良した。

このコミュニティーツアーでは観光客がウガンダ料理を地域住民と一緒に調理して試食する工程を盛り込んで、地域の人々をエコツーリズムに巻き込み、地域住民と観光客の双方に、チンパンジーとの共存への理解を促した。


地域の人々の収入向上のために、カリンズ森林周辺
で栽培されているお茶をバナナの幹の繊維で編んだ
カゴに入れて観光客向け商品も作った

任期を終えた後、よこはま動物園に復職し、チンパンジーの飼育に加わった。そして、来園者向けのワークショップや近隣小学校との連携授業などを通じて、ウガンダで目にしたチンパンジーが生息する環境や、その地域に暮らす人々について紹介し、環境保全や生物多様性などについて考える機会をつくっている。

動物と人間、双方への配慮

「現職参加で協力隊に行かせてもらったことへの恩返しとして、協力隊を通じて得た経験を積極的に還元しなければと思い、試行錯誤しながらさまざまな企画をやらせてもらいました」と川口さんは話す。そして、帰国後の経験は、協力隊で得た知見を改めて整理する機会にもなった。

ワークショップを行うとき、気をつけていることがある。結論としてこちらから一つの答えを提示するのではなく、「参加者それぞれに考えてもらう」ことだ。

「参加者一人ひとりがそれぞれ感じるものがある。また小さい子どもたちは、これから勉強をしていく中で答えを見つけていくと思うので、答えを提示せずに、自分が見たことを紹介したり、選択肢を提示するに留めている。そして、参加者自身が考え、答えを見つけて、次のステップに進んでほしい、と考えています」

協力隊に参加する前は動物側の視点に偏りがちだったが、現在は、その地域に暮らす人々のことも考えるようになった。動物の生息地周辺にはヒトも暮らす。どうやったらみんながうまく暮らしていけるかをみんなで考えていかなければならないと川口さんは考えており、動物園でのワークショップでは、動物の生態や生息環境だけではなく、現地の人々の生活や現状なども合わせて伝えている。


カリンズで共に活動していた人々と(前列右側が川口さん)

金環日食と動物たちの行動

ズーラシアは年間を通じてさまざまなイベントを開催しており、5月には金環日食と動物の行動変化を合わせて観察するイベントを開催。当日は早朝の開園だったが、予想以上に多くの来場者があったという。過去にアメリカの研究施設で飼育されていたチンパンジーが、金環日食が始まると一斉に高い場所に登って空を見上げたという報告があり、ズーラシアでも動物が普段とは異なる行動をとる可能性があったため、チンパンジーやゾウ、カンガルーや鳥類の観察を行った。しかし当日が雨がぱらつく悪天候だったこともあり、それほど大きな変化は見られなかったという。当日の記録は今後、報告がまとめられる予定だという。

現在はチンパンジーの担当から異動となり、絶滅危惧種のアジアのサルを担当している。これからは、アジアのサルについても様々な企画行っていきたいと考えている。一方、派遣されていたウガンダとのつながりも持ち続けていきたい。現在、横浜市立動物園(野毛山動物園、金沢動物園、ズーラシア)は、JICAの草の根技術協力事業「ウガンダ野生生物保全事業」を実施している。これは、2008年に横浜で開催された「アフリカ開発会議(TICAD IV)」がきっかけとなり、横浜市が始めたアフリカ支援だ。対象国にウガンダが選ばれたのも、川口さんが当時協力隊員として派遣されたことも関係している。この事業は昨年、3年間の延長が決まった。

「動物が生息する環境や、隣り合わせて暮らす人々について多くの人に知ってもらう仕事はとても意義があること。今後も動物を直接観察できる動物園という場所から様々な発信をしていくことが重要」

近年、環境保全の必要性が強く叫ばれているが、一度壊れてしまったものを元に戻すことは難しい。動物が暮らせない環境は、人間にとっても暮らせない環境となり得ること――。観光客ではなく、現地に住み活動した協力隊員だからこそ得られた知見が、川口さんのメッセージに強く込められている。

関連リンク

よこはま動物園ズーラシア
http://www2.zoorasia.org/

 

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