家庭裁判所調査官補となった、鈴木望さん(平成18年度1次隊/ホンジュラス/小学校教諭)[2011年1月17日掲載]

採用試験に一発合格

「帰国後、日本国内にも困難な状況にある子どもが多くいることに気付き、国内で非行少年に携わることに決めました」

鈴木さんは、社会を良くするために、未成熟で自己防衛力が弱い子どもを守り、支える仕事に就きたいと考えた。児童相談所や、児童養護施設などで働くことも検討したが、自分の性格に合っているのは,短時間で集中的に非行少年に向き合う家庭裁判所調査官だと思った。

しかし、家庭裁判所調査官になるためには、最高裁判所が年1回実施する「裁判所職員採用試験」を受験しなければならない。試験種目は教養試験、専門試験(心理学・社会学・社会福祉学・教育学・法律学のいずれか)のほか、論文、口述試験も含まれる。試験に合格すると「家庭裁判所調査官補」として採用され、裁判所職員総合研修所の家庭裁判所調査官養成課程に入所し、座学と実務あわせて約2年間にわたる研修を受け、ようやく家裁調査官に任命される。

鈴木さんは、ホンジュラスから帰国した2008年7月から猛勉強を始め、翌年5月に受験。倍率約20倍の狭き合格枠に見事一発合格した。

家庭裁判所調査官の仕事とは

家庭裁判所調査官は、心理学、教育学、社会学など人間関係諸科学の知識や技法、法律知識を活用して、家庭内の紛争や非行の原因などの調査をする仕事である。少年非行事件は、少年自身の性格や行動の問題だけではなく、その背景に少年を取り巻く家庭環境や社会環境など、様々な要因が複雑に絡み合っていることが多いため、事件の的確な理解と解決のために、家庭裁判所調査官が少年にとって適切、妥当な処分を選択できるように調査をする。
家庭裁判所調査官の役割と位置づけは右図のとおりである。

気付かせることの難しさ

現在は研修1年目。実務修習開始当初は先輩調査官の付きっきりの指導を受けたが、今や単独で事件の調査を行っている。加害少年、その保護者、事件の被害者、学校の先生などが調査対象者である。いろいろな少年に出会うが、物事を自己中心的に捉えていて、被害者の心の痛みや、家族が心配する気持ちを考えさせても、想像できない子が多くみられるという。

「調査で難しい点は、少年が言葉にしないこと(隠していることや意識していないこと)をいかに引き出すかです。例えば、万引きをした少年にその動機を尋ねると、『腹が減っていたから』と答えます。それが直接的な動機なのでしょうが、空腹の人がみな万引きをするわけではありません。そこで、普段の規範意識を振り返させたり、生活の中にストレス源がないかを探ったりして、非行につながった背景(間接的な動機)に向き合わせる働きかけを行っています」

家庭裁判所の執務は審判までで、その後の成長ぶりは確認できないが、担当した少年が再非行せずに更生した時に、やりがいを感じ、内心ホッとするという。

人生経験が増えた協力隊活動

大学の教育学科卒業後、新卒で協力隊に参加した鈴木さんは、小学校教諭の隊員としてホンジュラスに派遣された。それまでは何をするにも順調な人生を送っていたため、完ぺき主義で、自分にも他人にも厳しさを求める性格であった。自分にも何かできるだろうと、自信をもって参加した協力隊。しかし現地に入り、人生初めての挫折を味わった。


生徒への算数指導(ホンジュラスにて)

赴任先は山間の小さな町で、保守的な性格の現地の人々が暮らすところ。言葉ができない、ホストファミリーとうまくいかない、活動は空白状態、町の人々に軽視にされ、枕を濡らす毎日を過ごした。

しかし、赴任2年目からは意を決し、無力な自分を受け入れた。つたないスペイン語で活動の意義を訴え続け、なんとか数人の先生の理解を得て、算数を教える活動を軌道に乗せることができた。

「隊員になっていろんな人と出会い、初めて大きな挫折をし、それを乗り越えたので、以前の自分と比べておおらかになったと思います」

鈴木さんは2年間悪戦苦闘したが大きな成果を出せず、心残りのままホンジュラスを去ることとなった。そこで調査官試験に合格した後、リベンジのつもりで再び短期ボランティアに参加し、ヨルダンとブータンで青少年活動の隊員として活動した。


パレスチナ難民の子どもたち
(ヨルダンでのサッカー大会にて)

ヨルダンではパレスチナ難民キャンプで子どもたちにサッカーやドッヂボール、日本のソーラン節を教える3週間のイベントを行い大成功。ブータンでは、体育の模範授業を行い、大臣や先生に体育教科の重要性を訴えた。

両国での活動は超短期間であったが、ホンジュラスでは難しかった「現地の人の理解を得て、共に活動する」ことができたと感じたという。

協力隊経験で成長した自分でなければ、調査官の仕事は務まらなかったかもしれないと鈴木さんは話す。

「少年調査面接で罪を厳しく追求することも必要ですが、それだけでは少年の更生につながりません。少年が自力で実現可能な更生方法を一緒に考えることもします。少年と同じ経験はしていませんが、私なりの衝突や孤独の経験がなければ、少年の罪を追及したり、同情したりすることしかできなかったと思います」

帰国隊員としてできること

少年調査面接などを通じて鈴木さんは、事件を起こす少年の多くは、後先を考える力と、他人の気持ちを察する力が欠如していると感じている。

近年、家族や友人、地域の人々との繋がりが薄れ、無縁社会化が危惧されるが、それは高齢者に限ったものではなく、青少年や子どもたちにも及んでいるのかもしれない。便利になりすぎて、人を頼らなくても生きていける現況は、なぜか淋しさが残る。一人ひとりがもっと他人に興味をもつ社会になれば少年事件も減るのではないか。

少年犯罪の防止や、思い悩む子どもたちために、帰国隊員は何ができるか聞いてみた。

「思い詰めている人に、世界はもっと広いので、自分の意識と行動次第で人間関係や可能性を変えることができることを伝えてほしいです」

今回珍しく司法分野でOGが活躍していることを知った。協力隊経験が活かせる職業は、本当に幅広くあるものだと改めて実感した取材であった。

 

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