【兵庫県】スペイン語相談員・医療通訳者として 在住外国人を支援する、村松紀子さん(昭和63年度1次隊/パラグアイ/野菜)[2010年11月1日掲載]

1990年に入管法(出入国管理及び難民認定法)改正により、南米から多くの日系人が日本へ働きに来るようになった。当時、村松紀子さん(昭和63年度1次隊/パラグアイ/野菜) は再びパラグアイに戻って仕事をしたいと、スペイン語検定などの資格を取り準備を進めていた。地元神戸には南米日系人などの日本語を話せない外国人が、慣れない日本での生活に困っている状況を知り、進路の方針転換をすることにした。

93年、兵庫県は在住外国人のために4か国語(英語・スペイン語・ポルトガル語・中国語)の相談窓口を設置。相談員業務の委託を受けている兵庫県国際交流協会のスペイン語担当相談員に応募し、採用された。今年で18年目。

外国人県民インフォメーションセンターにいる村松さんを頼って、毎日多くの外国人が相談に来る。出身国・地域の生活習慣、社会文化に関する知識、言葉の裏にある微妙なニュアンスなど、協力隊経験者だからこそわかる感覚をもった村松さんは、地域社会の多文化共生においてさまざまな課題を抱えている行政にとって心強い存在である。

病気のときくらいは母国語で

スペイン語相談員の仕事を始めて1年半のとき、阪神・淡路大震災が起こった。相談窓口の業務は、震災直後よりも復興が進んだ1~2年後の方が大変だったという。

「在住外国人の人々にとっては復興の状況が分かりにくく、震災時の精神的ショックが特に大きかったため、なかなか立ち直れなかった」

不定愁訴(ふていしゅうそ:何となく体調が悪い自覚症状はあるが検査しても原因が見つからない状態)に悩む在住外国人に付き添って病院に行ったが、何も診断結果が出ない。当時医療の専門知識がなかった村松さんは「なんでだろうね…」としか言ってあげられない状況が続き、歯がゆい思いをした。

在住外国人の人たちが仕事や日本語の勉強に一生懸命になっている姿を見るなか、当人の努力だけでは乗り越えられない二つの例外状況があると感じた。一つは災害や犯罪に巻き込まれたとき。もう一つは病気になったとき。普段の生活で日本語を話す在住外国人も病気になると言葉が出て来ない状態に陥る。

協力隊での経験に照らし合わせるとよくわかる。村松さんがパラグアイで病気になったときもスペイン語が出て来なかった。現地人の同僚が心配して日本語ができる医者まで連れて行ってくれた。日本語で話を聞いてもらえることで、どれだけ精神的に楽になるかを体感した。

「在住外国人は日本の生活でいろんな言葉の壁にぶちあたるけれども、病気のときくらいは甘えてもいいんじゃないか、母国語で話せて気持ちに添ってあげられる優しい社会になってもいいんじゃないかと。そんな思いがあって、医療通訳を日本の中できちんと制度化したいなと考えるようになりました」

医療通訳研究会(MEDINT)

村松さんが医療通訳を始めた時、通訳の大変さで眠れず辛い日々を過ごした。

自分に適性がないのではと、悩み苦しみながらも続けてきた。他の通訳者と話をするとみんな同じような境遇にあることを知った。意見交換をするうちに本質が見えてきた。

「患者さんの痛みや辛さを何も感じない通訳者よりも、一緒になって涙を流してしまったり心が揺れてしまうような通訳者のほうが、実は医療通訳に適しているのかもしれない。やっぱりこの仕事にプライドを持って多くの人々に理解してもらいたいし、自分自身も続けていきたいと思うようになった」

切実な思いを行動に移すため村松さんは、2002年に医療通訳研究会(MEDINT)を立ち上げた。医療通訳者や外国人医療支援者などが集まって、知識や能力を高めるための勉強会や研修会を開いている。通訳言語で医療を学ぶ言語別勉強会、日本語で医学の知識を身につける医学勉強会をそれぞれ行っている。昨年からは医療現場の方に外国人医療を理解してもらうための講座も始めた。協力隊経験者の看護師がMEDINTのネットワークに参加して看護部会を作り、外国人医療を学ぶ看護職仲間の輪が広がった。

そして勉強や研究と共に、医療通訳の実情や制度化の必要性を各方面にアピールする。医療通訳者自身の声を発信する組織として重要な活動である。

ボランティアでもアマチュアではいけない

同じ通訳でも、国際会議の通訳やエンターテインメントの通訳などは脚光を浴び、高い報酬で評価される職業である一方、医療通訳や在住外国人への通訳(コミュニティー通訳)はバイリンガルもしくは語学が堪能な人なら誰でもこなせると見られがち。現にボランタリーベースがいまだ主流となっている。そんな悔しい思いを持ちながら村松さんは医療通訳の実情を語り続けてきた。

「人の命に関わることだから、医療のプロである医師が話した言葉を素人が訳したらいけない。ボランティアでもアマチュアであってはいけない。訳す人間もプロの気持ちを持たなければならない」

医療通訳もコミュニティー通訳もきちんとした技術や専門性があるものだと理解する人が次第に増えていったが、確立された職業として社会的に認知されているとは言い難い。制度環境が整っていない今も、外国語ができるというだけで医療現場に通訳として入ってしまっている人が多くいる。日本の医療通訳にはまだ職業規範や倫理規定のようなものがなく、誤訳などの責任に不安を抱きながら立ち合わなければならない。そもそも医療通訳の能力を図る資格認定もない。現場の実態を認識して検証する場もないため、改善を求める矛先もない。

制度化を進めるなかで医療通訳者の立場からコミットしていこうということで、2009年2月に医療通訳士協議会JAMIが設立された。医療通訳者、大学の保健医療研究者、医師、外国人医療の支援団体などが参加し、医療通訳に関する諸規定、資格認定、報酬・保障などの枠組み作りや制度構築に向けた取り組みが動き始めている。

村松さんは本業のスペイン語相談員と共にMEDINTの代表を務めつつ、協議会の庶務も担当している。フル回転の毎日だが、この仕事をやり続けていくという強い信念をもって取り組んでいる。

コミュニティーのために働く職業として

日本語とスペイン語両方を話せる日系二世の子どもたちの中に、将来通訳者になりたいという子がたくさんいる。18年のベテラン通訳者はこれからも技術を磨き続け、後進を育てたいと意欲を語る。

「大人になって、やっぱり通訳では食べていけないから他の仕事を見つけると言われるほど寂しいことはないですね。バイリンガルの子どもたちが『自分たちのコミュニティーのために働く職業として医療通訳の仕事を選択しました』と言ってもらえるようになるまでは頑張りたいと思っています」

関連リンク

MEDINT
http://medint.jp/

医療通訳士協議会JAMI
http://jami-net.jp/htdocs/

 

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