#10 ルナス(2016年1月20日掲載)

映画の中で、主人公が心ひかれる少年ノエルと、その姉アンジェラが住む貧民街「ルナス」という地名が出てくるが、あれは架空の地名だ。実際にはない場所だが、似たような現象はあちこちで見られるようだ。

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一攫千金を狙い、金を掘る人々

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薬品の混じった排水が川に流れ、住民の生活環境に重大な影響を及ぼしている

ルソン島北部のコルディリエーラ山岳地帯では、いくつかの集落で金の採掘が続けられている。1930年代に鉱山開発会社が始めたが、採算が合わないので、60年代、70年代に相次いで閉山した。しかし、その跡地を中心に個人で採掘する人が増えた。閉山されたとはいうものの、鉱山にはまだ資源が眠っている。開発会社に一定の手数料を払えば、だれでも自由に採掘できる。だから、一攫千金を狙う貧しい人たちが、農業をやめてでも金の採掘を行っているのだ。その数は千人を超えるといわれる。


だが、問題になっていることがある。採掘者の健康被害や周辺環境への汚染だ。金を精製するとき、人体に有害な青酸ナトリウムや水銀を使用している。そういった薬品の混じった排水がそのまま河川に流されている。国は規制しているが、個人採掘者にまで管理が行き届いていないというのが現状のようだ。

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若者も交じり、採掘した土を運ぶ
 

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土を洗う仕事を担う女性たち

一グラムあたり1,500ペソ(約4,000円)で売れるというから、一グラムで一家族が半月ほど食べていける収入になる。農業よりは安定しているし、当てれば、それこそ一夜にして大金持ちになれることもあるから、採掘を始める若者たちも増えている。失業者は、「泥棒などの犯罪に手を染めて生きていくよりマシだろう」という。今はこの環境破壊を誰も止められていないのが実情だ。

エグゼクティブ・プロデューサー  吉岡逸夫(昭和47年1次隊/エチオピア/映像)

(続く)

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