作り話 マリア(丸田 隆弘 S61年度2次隊/ホンジュラス/村落開発普及員)

ニカラグアにある女性隊員がいた。彼女の趣味は写真と紙芝居。着任当初から貧しい地区で幼児教育を行いたいと希望していた。

ある程度スペイン語の自信がついた4カ月後、彼女は貧困地域へ行った。

何日かして彼女は現地のJICA事務所長を訪ねた。出かける前の快活さや元気が失せている。「どうしたの?」と所長が声をかけた。すると、「私この国の人が大嫌いになりました。ボランティアで来ているのにひどい仕打ち、裏切られたような気持ちで、もう帰国したいくらいです」と言うではありませんか。原因は彼女が日本から大切に持ってきたニコンの一眼レフが盗まれたことです。

彼女は説明を始めた。彼女は手に紙芝居、背中にはカメラの入ったリュックを背負っていた。紙芝居会場に着いた彼女は長机に手提げカバンやリュックを置いた。紙芝居が始まると、あっと言う間に人だかりが出来て紙芝居は大盛況。涙している人もいた。写真を撮ろうと思って、リュックを手に取ってみたら、軽い。あ、カメラがない。住民も心配して周囲を探してくれたが結局カメラは見つからなかったという。

所長は、「これから僕が話すことはあくまで、作り話なんだけどね」と切り出した。

実はその紙芝居会場にマリアという女性が居てね、彼女は酒浸りで働かない夫と6人の子供を持つ母親。彼女は小学校3年までしか行っていなくて、文字が読めない。今は家政婦をしながら生計を維持している。先日1歳になる末娘の頭痛が治まらなかったので病院に連れて行った。汚れたサンダル姿のマリアを見た医者はぞんざいな態度で診断書を投げるように彼女に渡した。文字が読めない彼女は震える手でそれを隣の薬局に持って行って恐る恐る診断内容を聞いた。店員は、娘さんには脳腫瘍のような物が出きてるって、そして、毎週この薬を飲むように処方されているわよ。と応えた。薬の支払いは40コルドバ、月の家政婦としての収入が 300 コルドバしかない。毎週だと月に換算すると約160コルドバが末娘の薬代で消えてゆくことになる。彼女は暗澹たる気持ちだった。薬を飲ませないと可愛い娘が死んでしまう。そんな中、中国人か日本人か解らないアジア人がKAMISHIBAIと呼ばれるものを披露するために村に入った。子供6人を連れたマリアは最初から紙芝居は目に入っていない。末娘の薬代を払いながら、これからどのように生活してゆくかばかりを考えていた。そんな時、後ろのテーブルに置いてあるリュックに目が行った。そしてそのリュックの中にカメラのレンズが見えた。マリアはその時神様に祈った。

神様お願いです、私があのカメラを盗むのをお許し下さい。娘の薬代が払えないのです・・・と神様に誓ってカメラを盗み、マリアは雑踏の中に消えて行った。と、ここまで話した所で彼女は大泣きしていた。散々泣いたあとで一言 私ははじめから勘違いしていたのかもしれません。カメラを盗ませるような事をしてしまった私のほうが罪造りだったのかもしれませんねと反省していた。絶対的な貧困環境に置いては、盗むということは生き延びるための手段になっているという事に気づいた。その後彼女は立派な活動をして2年の任期を全うした。

 

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