ガーナで教えられたこと(清水 康朗 平成8年度1次隊/ガーナ/農業機械)

私はそれまで試験というもので思い通りの結果を得たことは無かった。自分では、与えられたことをこなすより、自分で切り拓くことの方が向いていると思い込んでいた。アフリカで生活が始まった時もそう信じ期待を膨らませていた。しかし、事前に調べてきた任地とかけ離れた現状を見た時、情熱に火が着くはずの私の心は絶望感に包まれてしまった。

マニュアル通りに進まないだけでストレスに感じてしまった。一年目は自分の改善策を主張し、協力姿勢を示さない者を嘆くばかりであった。さらに任地で自分の健康管理もままならず,自分の不甲斐無さを周りのせいにすることで自分を正当化していた。そんな息詰まる生活の中、ある時、休みを利用し気分転換に国内の旅をした。それほど遠くないところで多くの異なる部族文化を見ることができ不満を解消していった。

ある晩、国境近くの村で泊まることになった。初めて訪れる村ではよくあることだが、外国人が来たとなると村人は必ず村の長の所へ連れて行き挨拶をさせる。話を聞くとその村は、かつて植民地化の影響を受け、村を二分されたという。親戚や同じ村人が、異なる宗主国の色に染められたそうだ。この話を聞きながら、「だから私にも援助」の要求をされのではと察し私は、反対に任地で期待を裏切られた悔しさと苦悩をこれでもかと長い髭を蓄えた老人に話した。焚火を挟んで座っている村長は、感情高まる私の不満話を、彼の背景となっている夜空の煌めく星と一緒に、静かに最後までしっかりと聞いてくれた。「これで話は全部か?」という様な顔をしてゆっくりと彼が話し出す。「君の話は、両手で抱えきれない夢を持ちながら、抱えきれずにこぼれ落ちる夢ばかりを嘆いている。しかし、人間には手は二つしかない。二つあれば十分なはずだ。もう一つ欲しい夢がある時は、今持っているどちらかは手放すべきじゃないのか?」私は返す言葉が見つからない中、「何が言いたいんだ」という気持ちがこみ上げる。彼は話を続けた。「ここの者達は先祖から『一つの夢を持ったら、もう一方の手は空けておけ。』と教わっているんだ。何故だか解るか?」
色々と考えたが何一つ答えらしき物は浮かばず歯痒く感じた。炎に揺れる彼の顔は穏やかなまま暫く待ち、そしてゆっくりと答えを差し出すように話した。「それはいざという時、周りの人を助ける為さ」その瞬間、私の頭の中で何かが崩れだした。それは与えられた価値観だけに縛られていた自分だった。

 

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