ぶつかる「想い」が心を動かす (田中 直樹 H11年度3次隊/ホンジュラス/飼料作物)

2年間の任期で一度だけ、カウンターパートと大ゲンカをしたことがあります。
途上国ではありがちな状況かと思いますが、私の任国ホンジュラスもその例外にもれず、人々が路上にポイポイとゴミをポイ捨てするのが普通でした。昔はゴミのほとんどは自然由来のものでしたから、マンゴーの皮やバナナの葉を捨てても、すぐに腐って土へと還るか、ブタが食べるかして、うまく循環がまわっていたのでしょう。それが人々の環境意識が追いつかないまま、「開発」とともに先進国から缶やビニール袋が大量に持ち込まれ、当然の結果として町には土に還らないゴミがあふれていました。そして、私は人々が自分たちの町を汚すのが許せませんでした。とても悲しい気持ちになりました。
私の配属先は職業訓練庁の地方支部で、インストラクターの同僚たちは大学を出ている人も多く、ホンジュラス人の中では教育程度の高い人たちでした。しかし活動中カウンターパートと行動をともにしていると、そんな彼ですらゴミをポイ捨てするのです。私は幾度となく、「ゴミをその辺に投げ捨てるな」とカウンターパートの説得に努めました。ただ注意するだけではなく、つたないスペイン語で、日本が経験した環境問題、公害問題を説明し、「人々の意識」が変わる必要があることを説いたつもりでした。でも、彼は変わりませんでした。
あるとき、もう何度目かに、私の目の前でカウンターパートがミネラルウォーターの入っていたポリ袋を投げ捨てた時、私はとうとうキレてしまいました。
「わかった、よくわかった。それならどんどん捨てろよ! おまえの国はゴミ箱なんだからな!!」
侮辱的な「ゴミ箱」発言にさすがのカウンターパートも怒り、私たちは胸ぐらをつかみかからんばかりの勢いで向かい合いました。
「だってそうだろ! みんなその辺にゴミを捨てまくって、ホンジュラスはゴミに埋もれてしまえばいいんだ! ゴミ箱なんだから当然だ!!」

帰国直前、配属先が私のために開いてくれた送別会でカウンターパートが挨拶をしたときのこと、私との思い出で一番印象深かったのはこのときのケンカだと、エピソードを披露しました。
「ナオキに『ホンジュラスはゴミ箱だ』と言われた時は本当に応えた。あれ以来、オレは道端にゴミを捨てないように、気を付けている」

かつては自然とともに生活していた彼らに、開発とともに大量の廃棄物をもたらしたのは先進国です。ゴミ処理やリサイクルの技術はないままに、工業製品をどんどん持ち込んだ結果、「急速な開発に人々の意識が追いついていない」ことは明らかでした。

日本もかつて経済成長を優先させた結果、高度成長期に数々の公害問題を引き起こし、各地に甚大な被害を出したことで、一般市民の環境に対する意識が高まっていきました。
人々の意識が変わるまでに、多大な犠牲と時間を必要としたのです。
これから発展していく途上国は、さらに多くの困難が待ち構えているはずです。それでも、想いをぶつけることで人の心を動かすことができると、そう感じることができた出来事でした。

 

前に戻る

次のエピソードを読む

ページの先頭に戻る