シリアへの想い(前田 紗織 H16年度3次隊/シリア/日本語教師)

半年ほど経った時、初級でまだ日本語がつたない学生が、私に話しかけてきた。
「先生、元気がありませんね。どうしたんですか?」
彼は、日本で言う東大にあたるこのダマスカス大学で学ぶいわゆるエリート学生。アジアに憧れ日本語を学んでみたところ、すっかり魅了されたという若者のひとりである。因みに、シリアの若者は日本のことを驚く程よく知っている。中学高校の世界史で日本を含むアジアのことはしっかり学ぶそうで、彼らの口からまず出てくるのが「ヒロシマ・ナガサキ」そして、「戦後の驚異的な復興」である。
彼らは知っている。自国が、欧米・アジア新興国から遅れを取っていることを。しかし、アラブ圏イスラム国という事情から、同じように簡単にはいかぬことを。それでも、習慣・考え方のギャップと対話し模索しながら、なんとか経済的に豊かになりたいと願っているのだ。それは彼らを見ていて痛いほど感じ取れる。目の前にいるこの学生もその一人である。私は自分の悩みを打ち明けた。
「世界には非常に緊迫していて、日本の援助を必要としている国がたくさんある。私はあなた方のような裕福な人たちに悠長に日本語を教えていていいのだろうか」 と。彼から返ってきた答えは驚くほど明確だった。
「私はこの国が発展してほしいと願っています。そのために毎日学んでいます。日本語もそのためです。今、私は日本語を学ぶことで日本と近づけた。将来、日本にぜひ留学し、日本がどうやって発展してきたか、どうしたらこの国も発展できるかを学びたいと思っています。シリアには階級があり、私は将来この国を支えていく者の一人になるでしょう。そういった多くの若者は、ほとんど欧米に留学します。しかし私は日本に行きたいのです。シリアはアジアの国なのだから。私は欧米により日本にこそ、学ぶべきことがたくさんあると思います。先生は、シリアの国のために役立っているのですよ」
私は以後、自分の仕事に迷うことはなかった。私が関わったシリアの若者が将来、よりよきシリアの礎になることを心から願っている。そして今起こっているシリアの内戦が一刻も早く終わるよう、全世界の神に祈っている。
 

 

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