一本の電話(小林 由香里/H21年度1次隊・パナマ・村落開発普及員)

私は、国内で最貧困地域といわれるノベブグレ先住民自治区に町から通って民芸品開発をしていた。そこで一緒に活動をしていた組合のリーダーは、プリペイド式の古い携帯電話を持っていた。インフラが整備されていないこの地域では、山を登って電波を探さなければならず、雨が降ると電波を探せない上、彼女にとってプリペイドカードはとても高価なものであった。だからいつも連絡したいことがあると、私は「電話ちょうだい」と携帯にメッセージを入れていた。不定期に電波を見つけた彼女がそのメッセージを見たら私にワンコールだけ電話をかける。そしてその着信を見た私が電話をかけなおして彼女と話をするといったことが日常であった。 すれ違いも多く、着信に気づいたときにはもう遅く、折り返してもつながらないこともよくあった。だいたい彼女の生活リズムに沿って、電話をするのは夕方の4時か5時くらいであった。

ある日、昼間に電話が鳴った。彼女からだった。何か急用かな?と思いながらその着信音が鳴り終わるのを待っていた。しかしいつもとは違って、ワンコールで切れずにそのまま鳴り続けていた。不思議に思いながらも「もしもし?」と出ると「日本の家族は大丈夫なの?」という第一声が聞こえてきた。

この日は2011年3月11日。電池式ラジオで日本が地震と津波に襲われたというニュースを聞いた彼女は、私の日本にいる家族や友人を案じ電話をくれたという。日本から遠く離れたパナマの小さな村で日本のことを心配してくれた人がいるということを、絶対に忘れてはいけないし、日本でしっかり伝えていかなければならないな、と胸が熱くなったできことであった。

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