「苦労を話せば本が一冊書ける!」泣き虫生徒が女性起業家に・・・。その理由とは?(石坂貴美/12年度3次隊・バングラデシュ・染色) 

私はバングラデシュ政府の職業訓練所で染色技術指導を行っていました。ある日「夫に反対され、もう訓練を続けられない」と生徒が泣いていました。当国は女性の社会進出が遅れており、宗教や習慣によって外出が自由にできない女性もいます。しかし、彼女は初めて夫に自分の意思を伝え「技術を身につけて収入を得られる」と説得し、訓練を続けました。その後、自宅で洋裁、手工芸、染色等の注文を受け、教室も開催し事業を始めました。

販売は順調に伸び、教室で学んだ生徒たちも工房や自宅で委託を受けて働くようになり、活動がJICAのテレビ番組「地球家族」で紹介されました。そのインタビューで、彼女は「苦労を話せば本が一冊書ける!」と豪語し、事業を始めた理由について「3人の娘のためです」と答えたのです。バングラデシュの社会では結婚して男児を産み・育てることが女性の重要な役割とされているために、夫の親族や自分の両親からも男児を産むまで出産するように言われ続けていました。また、女性は肌の色が白いほどよいとされますが、彼女は肌の色に劣等感をもっていました。そこで、娘たちが将来自分と同様に悩まないようにと願い、事業を起こして「人として社会に認められる」ことで、「女性の価値は、子どもの性別や肌の色のみで決まるのではない」ことを示したいと彼女は考えたのです。

それまで私は、女性たちが訓練を受ける目的は、技術を習得して収入を得ることだと思っていました。厳しい環境の中で収入を創出することは、並みならぬ努力と根性が必要であると考え、泣き言は聞かず鬼教師に徹して生徒たちに厳しく指導を行っていました。しかし、これをきっかけに収入は彼女にとって自身の尊厳を取り戻すための手段であったのだと気が付き、収入が各人にとってどのような意義があるのか考え、生徒の話しや悩みに耳を傾けるようになりました。苦労して事業を起こす生徒たちの中には、幼いころに結婚させられ、虐待を受けて離婚した経験を持つ生徒も何人かいました。そんな彼女たちは、事業を起こして見違えるほどたくましく、生き生きと暮らすようになりました。その変化の過程で共に悩み、考えながら活動をすることは、私にやりがいと充実感をもたらしまた。

それから10年が経ちました。彼女の工房では、数百人の女性たちが収入を得ています。より多くの女性たちへ機会を提供したいと事業を拡大し、彼女は奔走し続けています。また、長女と次女は医学部に通い、結婚のために大学進学を断念した彼女の代わりに夢を叶えてくれています。さらに工房には、お小遣いを稼ぐために女子学生たちもやってきます。彼女たちは進級・進学に必要な塾や教材の費用を賄っています。また彼女は訓練所で知り合った女性たちと生産者組合も立ち上げました。

3人の娘のために一念発起した泣き虫生徒の活躍は、地域の女性、女子たちの夢を叶える変化を起こしながら展開を続けています。 

 

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