【Vol.6】実践事例紹介:岐阜県多治見市立小泉中学校 夏目佳代子先生/コラム:暮らしを計測する試み ~より良い暮らし指標~

今回の事例紹介は、岐阜県多治見市立小泉中学校 夏目佳代子先生です。
夏目先生は平成21年度の教師海外研修で、ブラジルを訪れました。開発教育指導者研修、教師海外研修での学びが、その後の青年海外協力隊(ニカラグア)への参加に繋がり、帰国後はさらにその経験を生かして実践につなげておられます。今回はブラジルでの研修をもとに作成した教材に加え、ユニセフ、外務省、NGO等が作成した様々な資料も活用した夏目先生の授業実践をご紹介します。様々な国際協力に関わる人々の思いや生き方を知り、自分の将来や進路を考えることをねらいとして、共に生きる力を育てる参加型プログラムです。

なお、夏目先生の青年海外協力隊員としての活動や生活については、こちらを参照ください。
【JICAボランティア活動記】時間も思いも共有する(JICA中部ホームページ)
 

国際理解教育に対する思い

生徒たちが世界各国の文化や人々、日本とのつながりを知り、広い視野や価値観をもって世界に目を向けたり、世界の中の自分について考え、主体的に行動したりできるようにしたいと想っている。「国際理解教育は理解教育」という言葉がずっと心に残っている。世界のことを理解するためにも、身近な人や自分自身についての理解を深め、かかわる力を育てていきたい。

実践事例

タイトル

Specialistsから学ぼう!

実践教科

総合、道徳、英語(8時間)

対象者

対象:中学2年生

実践にあたって

ブラジル研修で一番心に残っていることは、「人がもつ力」「人が人に与える力」「笑顔と人の温かさ」である。多くの人と出会い話を聞く中で、プロジェクトを動かすのは技術や設備だけでなく「人と思い」だということを強く感じた。また、夢をもち、それに向かって努力し続ける人々の姿勢から学ばされることがたくさんあり、そのことを生徒たちにも伝えたいと思った。

研修後、まず通信で、自分の仕事に誇りをもって、夢に向かっている多くの人たち(Specialists)に出会ったことを伝えた。そして,生徒たちにも今どんな夢をもっているかを書いてもらった。ぱっと書いた生徒はごく少数であり、「決まっていない」「今はない」と答える生徒が多くいた。

私は、生徒たちが自分の目標や夢の実現に向けて努力し続け、「なりたい自分」に少しでも近づくことができるようにしていきたいと考えている。中学2年生という時期は自分の将来や進路について考え始めるときである。ブラジルに貢献している日本人や日本の技術について、またブラジルで出会った人たちの生き方や思いを伝えていくことで、生徒たちが自分の将来や生き方について考え、夢をもって進路を自分で切り拓いていくきっかけにしたいと思い実践を進めた。

授業の構成案

時限 プログラム 資料

1~3

「あんなブラジル、こんなブラジル」
【第1時】
・ブラジルについて知っていること、イメージを書き出す。
・班で模造紙にまとめる。 《KJ法》
・他の班がまとめた模造紙を見て回り、全体で共有する。
・「実践者がなぜブラジルに行ったのか」と印象に残っていることを聞く。
・自分の夢について考える。

・パワーポイント
・「アマゾンの学び舎」
・実物

【第2.3時】
・班対抗でブラジルクイズを行う。
4(前半)

「国際協力って何?」
・自分が今夢中になっていることを書いて、班で交流する。《アイスブレーキング》
・「国際協力」という言葉を聞いてイメージすること、知っていることを班で書き出す。《ブレインストーミング》
・他の班の書いたものをギャラリー方式で見て回り、全体で共有する。
・世界の現状と国際協力の定義について知る。


・外務省「日本の国際協力」
・虎の巻「国際協力」
 

4(後半)~6

「Specialistsから学ぼう!~技術協力プロジェクトと携わる人々の思い~」
【第4時】「(1)地域警察プロジェクト(交番システム)」
・サンパウロの犯罪件数の移り変わりを示した表と、サンパウロと日本の犯罪数との比較を示した表を見て、気づいたことを班で交流する。
・サンパウロの交番の写真を見て気づいたことを班で交流する。
・サンパウロの交番システムと日本のつながりについて知る。
・交番システムの普及に努めるジョルジ軍曹の思いを知る。
・「交番システム」という技術協力の方法を知って感じたこと、ジョルジ軍曹の仕事に対する思いや生き方を知って感じたことを書いて振り返る。

・犯罪数データ
・写真、パワーポイント
・新聞記事 

【第5時】「(2)オンダリンパプロジェクト、無収水プロジェクト(上下水道)」
・生活の中で水を使ってすることを班で出し合う。
・「もし安全な水が手に入らなかったら?」 班で派生図を書く。
・世界の水事情について知る。
・何の工事をしているか,写真を見て気づくことを交流する。《フォトランゲージ》
・ブラジルで行われている上下水道プロジェクトと日本のつながりを知る。
・プロジェクトに携わる人々の思いを知る。
・「上下水道」という技術協力の方法を知って感じたこと、プロジェクトに携わる人々の仕事に対する思いや生き方を知って感じたことを書いて振り返る。
・写真、パワーポイント
・青年海外協力隊HP
・ユニセフ「いのちの水」
・JOCA発行『Springboard』特集「水」
・携わる人へのインタビュー
【第6時】「(3)アマゾンペーパープロジェクト(紙すき)」
・「これは何?」実物と写真を見て、班で考える。《フォトランゲージ》
・何に使うのか、班で考える。
・なぜ紙をつくる技術がブラジルに導入されたか考える。
・ブラジルのアマゾンペーパーと日本のつながり、紙すき、製品ができあがるまでの行程を知る。
・紙や製品を実際に見たりさわったりする。
・アマゾンペーパーで働く人々の思いを知る。
・「紙すき」という技術協力の方法を知って感じたこと、アマゾンペーパーで働く人々の仕事に対する思いや生き方を知って感じたことを書いて振り返る。
・写真、パワーポイント、動画
・実物(クワラの繊維、アマゾンペーパー製品)
・働く人々へのインタビュー
7・8

「人がつながる国際協力」
・Specialists Sheets(国際協力に携わる人、ブラジルで夢に向かって頑張っている人のやりがいや、夢、メッセージ)を班で分担して読み、交流する。
・パンフレットを読み、様々な国際協力の方法について知る。また日本も援助を受けて発展してきたことを知る。     
・国際協力の1つである青年海外協力隊の職種リストを見て、興味をもった職種について交流する。
・ブラジルで活躍しているSpecialistsを知って分かったこと、国際協力について分かったこと、Specialistsの人たちの生き方から、自分の生き方、将来に向けてのヒントがあったか、について振り返り、班で交流をする。

・Specialists sheet(新聞記事やweb site)含む
・ソムニード「国際協力って何?」
・虎の巻「青年海外協力隊職種リスト」
 

授業を終えて

参加型学習の手法を用いながら授業を進めることで、生徒たちは仲間と共に考えたり意見を交流したりしながら、日本とブラジルとのつながりや国際協力について理解を深めるとともに、今までの自分、これからの自分について考えることができた。一番伝えたかった「Specialistsたちの仕事に対する思いや生き方」は、彼らの心にしっかりと届いたと思う。

この実践を行った後しばらくして行われた生徒会選挙で、クラスのある男子生徒が図書委員長に立候補した。その面接で、担当の先生が「教科と図書室をつなげてどんな活動ができそうか何か案はありますか?」と質問をした。他の立候補生徒からは「国語で出てきた作者の本を集める」「理科や社会で調べ学習に使う」などの案が出された。彼は、「総合的な学習と図書室をつなげたいです。世界にはいろんな国があって、僕たちと違って不自由な生活をしている人たちもたくさんいます。僕は授業で知ったけれど、そういうことを知らない人もたくさんいると思うので、いろんな国について知れる本のコーナーを作ってみんなが知ることができるようにしたいです。また、そういう本を紹介するポスターもつくって掲示したいです」と話した。授業を通して学んだことから、彼が自分にできることを考えて、実行しようとしていることが感じられ、とてもうれしくなった。

今回は「知る」「気づく」に重点をおいた実践であった。今後、さらに生徒たちが「行動する」力をつけて自分の将来を切り拓いたり、広い視野や多様な価値観をもって世界へ目を向けたりできるよう実践を続けていきたい。

JICAほか、教育支援機関の活用例

開発教育指導者研修、教師海外研修 

開発教育指導者研修、教師海外研修を受講し、人類共通の課題や、参加型の手法など多くのことを学ぶことができた。学んだことを、授業や日々の生徒とのかかわりの中で実践する中で、参加型で学ぶことの意義を強く感じている。同じ思いをもった人たちと出会い、共に学び合えたこともとても有意義であった。多様性受容力が高まったり、さまざまな視点から物事を見ることができるようになったりと、研修で学んだことが自分自身の価値観や生き方の指針にもなっている。

出前講座

中学3年生が、修学旅行で長崎を訪れた。ねらいの1つである平和学習を進めるにあたり、世界で今起こっている現状についても目を向け、平和な世界をつくっていくために、自分は何ができるかを考え、行動できる力を身につけさせたいと考え、シリアで協力隊として活動されたOVに出前講座を依頼した。参加型の手法を用いた講座で、生徒たちもシリアを肯定的にとらえ、自分ができることを考えることができてとてもよかった。

国際理解教育の実践に有益だと思うもの 

・JICA国際理解教育実践資料集
・JICA中部国際センター 「教室から地球へ」
・NIED国際理解教育センターのワークショップ
・愛知県国際交流協会の教材「わたしたちの地球と未来」120か国版と活用マニュアル
・ERIC(特定非営利活動法人国際理解教育センター)の教材
・ユニセフのHPや教材
・ACEのHPや教材
・名古屋をフェアトレードタウンにしよう会の取り組み
・地球のステージ(勤務校や地域で実践したい)

今後、チャレンジしたいこと

自分が担任するクラスや授業で実践するだけでなく、より多くの先生方に、国際理解教育の重要性や必要性について、そしてそのよさを知っていただき、実践する仲間を増やしていきたいと思っている。また、ファシリテーターとしてのスキルを高め、学校外での実践も積み重ねていきたいと思い、学んでいる。

ショートコラム 暮らしを計測する試み ~より良い暮らし指標~

6月に内閣府が平成26年版「子ども・若者白書」を発表しました。白書では、特集として世界7か国(日本・韓国・アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・スウェーデン)の若者の意識調査を実施。その中で「自分の将来に明るい希望を持っているか」という調査項目がありました。この問いに「希望がある」「どちらかと言えば希望がある」と答えた日本人は61.6%。これは調査対象7か国中で飛び抜けて最下位となる数値でした。同じ調査で「自分自身に満足している」「自分には長所がある」「自分の参加により社会現象を変えられる」と答えた割合も日本が最下位で、将来に悲観的で自分に自信がない、社会に諦めを感じているという日本の若者像が浮き彫りとなりました。

一方、文部科学省所管の統計数理研究所が10月に発表した国民性調査では、「生まれ変わるなら日本に」と答えている日本人が83%にのぼり、過去の調査と比較して、とくに若い世代でポイントが大きく増加しています。将来に悲観的であるにもかかわらず他国と比べると日本人が良いというのは面白い結果ですね。

ところで、日本の7月-9月期GDP年率マイナス1.6%という数値が発表され話題となっています。個人の国民性を表す調査とは別に、人々の暮らしを計測、比較する指標として活用されるGDPですが、近年、経済的指標だけでなく、満足度、幸福度などを取り入れた様々な指標や研究が登場しています。ブータン王国から提唱された国民総幸福量(GNH:Gross National Happiness)という考え方が有名ですね。その他にも地球環境保全と生活の調和を重視した地球幸福度指数(HPI:Happy Planet Index)や国連が発表した世界幸福度報告書2013(World Happiness Report 2013)など、経済指標以外で暮らしを計測しようとする試みは年々活発になっているように思えます。

こうした各種指標の内容や指標に添ったランキングは、国際理解教育の場でも活用できそうです。なかでも注目したいのが、経済開発協力機構(OECD)が2011年から毎年発表している「より良い暮らし指標」(BLI: Better Life Index)。BLIは、暮らしの11の分野(住宅、所得、雇用、共同体との関わり、教育、環境、市民参加、健康、生活満足度、安全性、仕事と生活のバランス)について、OECD加盟36か国の比較を可能にしています。BLIのウェブサイトでは、これらの指標の重要度を自分なりにアレンジして、その結果のランキングを見ることができます(例えば、教育だけを重視した指標では日本は7位、11項目平均では20位)。また、自分でアレンジした指標の投票や、他の国の投票ではどの項目が重視されているのかといった数値を見ることもできます。授業の参考資料として、活用してみてはいかがでしょうか。

子ども・若者白書(内閣府ホームページ)
日本人の国民性調査(統計数理研究所ホームページ)
より良い暮らし指標(OECDホームページ) 和文ページ※解説のみ
より良い暮らし指標(OECDホームページ) 英文ページ

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